銃器・銃器損傷の最終回です。
最後はもっと具体的な話をしましょう。
前回は『射撃距離によって射創の性状が違う』というのを書きました。
接射:皮膚に接着した状態からの射撃。爆発ガスの影響を強く受ける。
近射:比較的近い距離からの射撃。火薬粒の影響を強く受ける。
遠射:比較的遠い距離からの射撃。上記2つ(爆発ガス・火薬粒)の影響を受けない。
簡単にはこんな感じでしたね。
逆にこういった所見から、射撃された距離をざっくりと推定することもあるという話でした。
他に実際射創を見て考えないといけないことがあります。
射創が複数ある際『どれが弾丸の入口(射入口)でどれが出口(射出口)か?』ということです。
順番としては『どの距離から撃たれたか?』を推定し始めるよりも先でしたね。
射創が1つだけなら「盲管射創なのでこれは"射入口"だ」というのを言うのは簡単ですね。
でも射創がいくつもあったら...大変ですね。
まず分かりやすいのは、単純に『いくつの射創があるか?』ですね。
射創が奇数なら「必ず盲管射創(つまり弾丸が体内に残っている)」でしょうし、偶数なら「全て貫通射創(突き抜け)、もしくは+偶数回の盲管射創」なわけです。
これは簡単な算数の問題ですね。
また最近では死後CTも取りやすい環境が増えてきたので、それで体内の残留した金属片の有無、つまり"盲管射創"を確認することも可能です。
ただし弾丸は金属なのでアーチファクトを起こすため、むしろレントゲンの方が良いのか?と思ったりもします。
特に散弾銃の場合などは無数に弾丸が残留することもあり、教科書にはその際のレントゲン画像がよく載っていますし。
うまく調整してCTでも綺麗に描出されている画像なども見かける気もしますが、実際はどうなんでしょう...。
続いて射創自体を細かく見ていきます。
前々回から"射入口"と"射出口"が出てきていますが、実際にそれら両者に見た目の違いはあるのでしょうか?
もっと言うと『どちらが入口でどちらが出口なのかは判別できるのか?』ということですね。
答えはだいたいのケースで『判別可能』です。
その理由を見ていきます。
まず"射入口"のケースを見ていきます。
射入口は発射された弾丸がまず最初に皮膚と接触する部分に出来ます。
ですので、射入口では弾丸がめり込む際に出来る"挫滅輪"や"汚染輪"が認められます。
接射・近射では、火薬粒による"煤輪・火薬輪"、"焼輪"で黒っぽく見え、見た目的にも分かりやすいです。
射入口自体は比較的綺麗な円形であり、破裂状(→星形)を呈する射出口とは一般的には形が違うとされます。
また衣服などがあれば、弾丸が入り混む際にそれを巻き込む場合もあります。
続いて"射出口"です。
こちらは基本的に"挫滅輪"や"汚染輪"は見られません。
接射の場合でも、近射・遠射の場合でも、同じような射出口となります。
皮膚を突き抜ける際に皮膚が伸展し、一見挫滅輪にも見える皮膚所見を認める場合もありますが、これについては"伸張輪"として区別されます。
前述のように、射出口は破裂状で不整形であることが多いです。
射入口と射出口の大きさを比べると、
【射出口>弾丸のサイズ>射入口】
と、一般的には射出口が大きく、射入口は弾丸のサイズよりも小さいとされます。
これは『射出口では出て行く弾丸が変形していたり、他の組織を巻き込んで出て行くため大きくなる』と言われていますが、接射に近い場合は爆発ガスの影響等で【射入口>射出口】となることもあり、サイズに関しては例外も少なくないため注意が必要です。
以上などのポイントを押さえながら射創を見ていきます。
射創とは言え、結局は丁寧に観察していくことが最も重要であるのは他の創傷と変わりません。
基本を押さえつつ、それを医学的・科学的に解釈していくということです。
3回に渡ってだらだらと長くなってしまいましたが、今後はもう少し簡潔に書くことを心掛けたいところです...。