第108回医師国家試験 G問題 問3 [108G3]

108G3
医師の対応として正しいのはどれか.

a ナイフで刺された患者について警察に通報した.
b 患者を診ずに家族と話しただけで処方箋を交付した.
c 輸血を拒否している成人患者に予定手術で輸血した.
d 患者の意識がなかったので,病状を患者の上司に説明した.
e 患者の家族に依頼され,死亡診断書に虚偽の死因を記載した.




正答は【a】です。


[a] 正しい。犯罪があると疑われる際は、警察への通報が刑事訴訟法によって認められています。刑事訴訟法 第239条第1項「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。

[b] 誤り。無診療治療は医師法によって原則禁止されています。医師法 第20条「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。

[c] 誤り。患者の輸血拒否に関しては有名な判例があります。輸血拒否の強い意志がある患者に対して、超緊急時に輸血する方針であることを伝えないまま手術を行った際、結果的に救命のために輸血を行った場合であっても医師が損害賠償責任を負う可能性があります。

[d] 誤り。業務上で知り得た秘密を漏らしたら場合、罰せられる可能性があります。刑法 第134条第1項「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

[e] 誤り。診断書を偽装した場合、罰せられる可能性があります。刑法 第160条「医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をしたときは、三年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。



医師の対応として、常識的な問題ですね。

仮に具体的な法律を知らなくても解答できたのではないでしょうか。


あえて補足するなら、選択肢[c]の"輸血拒否"に関する判例です。(参考判例: 平成10(オ)1081)

この判例は、法律を勉強する際には必ず出てくる判例なので、知っている方も多いと思います。


裁判要旨は[c]の解説の通りですが、もっと詳しく書くと、、、

『輸血拒否の強い意志がある患者に対して、患者が無輸血手術を期待していることを知っているにも関わらず、超緊急時に輸血する方針であることを伝えないまま手術を行い、結果的に救命のために輸血を行わざるを得なかった場合であっても医師が損害賠償責任を負う可能性がある』

というものです。

日々救命に全力を注ぐ医療関係者にとっては、やや複雑な思いを抱く判例内容でもあると思います。

ですが、"患者の自己決定権"という意味では大変重要な考え方でもあります。


その他、"輸血拒否"には、

・絶対的輸血拒否
・相対的輸血拒否

の区別があったり、"自己血輸血"という方法もあったりします。


医師として重要なテーマと思いますので、余裕のある方は是非一度勉強してみてください。



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