第83回医師国家試験 A問題 問99 [83A99]

83A99
70歳の男性.早朝に胸痛発作を起こしたために往診し,治療を行った.同じ日の深夜に再度依頼を受け,往診したが患者はすでに死亡していた.死因を心筋梗塞と診断した.
正しいのはどれか.

a 警察に届け出なければならない.
b 司法解剖をしなければならない.
c 死体検案書の作成をする.
d 病理解剖をすれば死亡診断書を作成できる.
e 直ちに死亡診断書を作成できる.




正答は【e】です。


[a] 誤り。文中に"異状"をにおわすような記載はなく、異状死体と認めていなければ警察に届け出る必要はありません。

[b] 誤り。文中に「犯罪性・事件性がある」といった記載はなく、司法解剖実施の義務はありません。そもそも司法解剖をするかどうか?に関して医師に決定権はありません。

[c] 誤り。「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた疾病に関連して死亡したと認める場合は"死亡診断書"を交付する」とされています。

[d] 誤り。上記の通り、"死亡診断書"の交付・作成に"病理解剖"は必須ではありません。

[e] 正しい。最終診療後24時間以内に、その生前に診療していた疾病に関連する死亡であると判断できる場合は、再度(死後)診察を行うことなく死亡診断書を作成できます。



問題文を簡略化すると、下記のようになります。

「胸痛発作の患者を往診・治療した後、その診療の24時間以内に患者が心筋梗塞によって死亡した。」

本事例は、医師法20条の『診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合』に当てはまると考えられるので、再度診察を行うことなく"直ちに"死亡診断書を作成できます。



ただそもそも「このケースは"死亡診断書"でよいのか?」という点についてはやや議論の余地はあると個人的には思います。


"死体検案書"ではなく"死亡診断書"を作成する条件としては、「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」とされています。

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※「令和4年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」より

この"生前に診療していた疾病に関連して死亡した"という文言が引っかかってきます。


要は『(問題文前半にある)"胸痛発作"は、最終的な"心筋梗塞"に関連したものだったのか?』ということです。

うがった見方をして「生前の"胸痛発作"は、肋間神経痛や逆流性食道炎など、心筋梗塞とは関係ないものだった」とすれば、

検案の上、"死亡診断書"ではなく"死体検案書"を発行しなければなりません。

manual_h28_tsukaiwake.jpg
※「平成28年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」より



もし「生前に診療していた疾病に関連する死亡である」と判断できない場合には、死体検案を行うことになります。

医政医発第0831第1号.jpg
※「医政医発第0831第1号」より


「"胸痛発作"が心筋梗塞によるものだったのか?を確かめた上で死亡診断書を作成すべきだから、"病理解剖"までする必要があるんだ!」と感じた方は、[d]を選んだかも知れません。

ですが、その場合は"病理解剖"ではなく"検案"をすべきと言えます。



もっと言うと「病死=非異状死」とも限りません。

「病死であること」と「異状死ではないこと」は"イコール"ではないということです。

ですので、捻くれた私からすれば、[a]や[b]の選択肢も考えようによっては微妙です...。

問題内容についてあらぬ誤解を招かぬよう、問題文に「異状はなかった」くらいの一文は入っていても良かったかも知れませんね。



何にせよ、国試的には「死因が心筋梗塞であるなら、生前の胸痛は心筋梗塞に関連した心筋虚血によるものと常識的に判断しなさい!」ということだと思います。



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