2022年9月29日発売 [900円+税] 小学館/小学館新書 (出版社URL)
『異状死 日本人の5人に1人は死んだら警察の世話になる』新書判 全288頁 (著者:平野久美子)
「多死社会」で起きる"異常"事態
《イジョウ死》と聞けば多くの人は「異常死」という漢字を思い浮かべ「不審な死に方」を想像するが、本書で取り上げるのは《異状死》である。
検視(検死)というと、殺人事件や事故死、医療ミスによる死亡などの「事件」の話に聞こえがちだが、実態は"ごく普通の死"での検視が大半だ。
自宅や施設など病院以外での死亡や、持病ではなかった死因の場合は基本的に《異状死》と判断され、警察の捜査や検視が必要になる。現在は5人に1人が異状死扱いとなっており、在宅看取りが推進される中でその数は飛躍的に増えていく。親族や自身が《異状死》となった場合、どんなことが起きるのか。
父母を亡くした著者の体験を入り口に、摩訶不思議な日本の死因究明制度とその背景をレポート。さらに、自身や家族が「異状死扱い」されないためにはどうすればいいのか、法医学者や警察医、在宅看取りを行う医師たちを取材し、その対策も探る。
身内の不幸で実際に自身も"イジョウ死"に触れた平野久美子さんが書いたノンフィクション作品です。
タイトル通り、"異状死"について書かれた本で、日本の検視/検案制度の実態を、経験者としての視点から描いており、大変読みやすくおすすめできる本です。
※↓著者が「理解しやすい」と評した東京都監察医務院による"異状死"の定義。
"検視制度"や"検案制度"というテーマ自体は、かつてからいろいろなところで問題点や課題が指摘されてきています。
そうした中、本作品は、当初は全く制度のことも知らなかった著者が、両親のご不幸等を通して、実際に自分が当事者となって初めて抱いた疑問点を出発点としています。
そこからその疑問点に対する答えを自ら専門家の元に足を運び、異状死に対する理解を深めていった過程を経て作られているようです。
そのため、これまでのお堅い法医学者の先生が書いた本よりも断然読みやすいです。
なおかつ遺族目線に立った内容であり、一般の方々もすごく共感できる本になっていると私は感じました。
著者が経験したのは"検案のみ"のパターンだったようで、"解剖制度"への言及は余りありませんでした。
どちらかというと、"法医学者"というよりは"警察"に対する記載が多い印象です。
・"異状死"という言葉の定義の曖昧さ
・今までの自身の理解不足
・検視の強制性
・唐突に進められる制度の違和感
・検案料等に関する諸問題
・葬儀会社との警察の関係性やそれに対する不信感
こういった点をベースに、法医学者や実際に警察医業務を行っている臨床医にインタビューを行いながら書き進めています。
筆者は東京・横浜と、2つの監察医導入地域(※横浜は現時点で既に廃止済)で"異状死"に触れたことから、両者の対比を通して死因究明制度の地域差も描いています。ただ横浜の(旧)監察医制度が余りにも特殊過ぎていたので、個人的には死因究明を語る際に横浜を比較対象とすべきでない存在とさえ思っていますが...。
私自身は法医学側の人間ですので、実際に地域医療や在宅・看取り医療に携わっている臨床医の先生の言葉がとても印象深く感じました。
彼らは主に癌や老衰を看取る先生方なわけですが、そのような臨床医の中にも、死因究明に対しては当然様々なスタンスの先生がいらっしゃって、
「老衰にも直接の死因が別にあるから、厳密に言えば死因究明をするは必要ある(が実際は...)」
「かかりつけ医であっても死因の確定は難しい」
とまで仰る先生もいるようで、現場の苦悩がうかがえます。
確かに、末期がんの患者さんだからといって、必ずしも末期がんで死ぬとは限らないですからね。
一般的には(家族は特に)「末期がんなのだから死因も当然末期がんだろう」と思いたくなるとは思いますが、
厳密に医学的に診ると、安直にそうとは言えないケースがあるのは、法医学でもしばしば経験します。
まして、死因に関して一切の責任を負わなければならない現場医師にとって、より慎重に判断せざるを得ないのは仕方ないことだと私は思いますね。
法医学者へのインタビューでは、、、
"死因の特定"には結局解剖をするしかありません。
しかし、"異状死を減らす"なら、
・臨床医師の法医学スキルアップ
・死後画像検査
などをうまく向上させていくことで減らせる可能性はあるという、法医学者の声には納得しましたね。
では、一般の人にとって、"異状死"にうろたえないためにどうすべきか?
これについても著者は多く考察を加えています。
私がこの本を読んで1番感じたのは「生前からの死に対する心構え」です。
これは、亡くなりゆく人自身だけでなく、周りの家族も含めてです。
「"死"は当たり前のことで怖くない」
本の中に出てくるこの臨床医の言葉がとても心に残っています。
...最後に1点だけ。
"死後画像"という意味でのエーアイは、"AI"ではなく【Ai】(Autopsy imaging, "i"は小文字)の方が適切な表現かと思います。
ということで、今回は『異状死 日本人の5人に1人は死んだら警察の世話になる (著:平野久美子 )』をご紹介しました。
分量もとても多いわけではなく、新書で読みやすく(お手頃価格!)、内容もスッと入ってきましたよ。
これは本当に「著者が実際に経験した内容に基づくノンフィクション」だからだ思いますね。
皆さんにも是非一度手に取って読んでみてほしい作品です。