第92回医師国家試験 E問題 問11 [92E11]

92E11
77歳の男性.一人暮らし.肺気腫による低換気状態であり,本人の希望で在宅療養をしていた.主治医が週1回往診していたが,5月のある日,往診した主治医がベッドで死亡している患者を発見した.検案時の死体所見:暗赤色の死斑が背面に弱く発現し,指圧により褪色しない.死体硬直は全身の諸関節で強い.角膜混濁はやや強く,瞳孔径は両側とも4.0mm.直腸温は22.0℃で環境温と一致している.腹部などに腐敗変色は出現していない.
死後経過時間として適切なのはどれか.

a 5時間
b 10時間
c 24時間
d 2日
e 5日




正答は【c】です。


[c] 正しい。死後経過時間の推定に必要な状況を整理します。

・5月 → 真夏や真冬のような環境下ではない。
・死斑は出現する → 死後1〜2時間以上は経過している。
・指圧により褪色しない → 死後1日以上経過している。
・死後硬直は全身の諸関節で強い → 死後12時間以上経過している。
・角膜混濁はやや強い → 死後1日以上経過している。
・直腸温は環境温(22.0℃)と一致 → (37.0-22.0)÷0.8≒18 → 死後18時間以上は経過している。
・腹部に腐敗変色は出現していない → 死後2日以上は経っていない。

これらを総合的に判断すると、おおよそ"死後24時間(=1日)"というのが最適解かと思われます。

[a] 誤り。死後5時間であれば、まだ直腸温は環境温(=22.0℃)まで低下することはないと思われます。他にも、死斑は指圧で褪色するでしょうし、角膜混濁も軽度だと思いますね。

[b] 誤り。死後10時間であっても、[a]同様、まだ直腸温は下がり切ってないでしょう。死斑は強い指圧でやっと褪色といったところでしょうか。死後硬直や角膜混濁は、[c]死後24時間とやや区別がつきにくいところです。

[d] 誤り。死後2日であれば、早ければ死後硬直が解けてきています。角膜混濁は著明で、瞳孔は透見できません。腹部の腐敗変色は早ければ出てきていてもよいかも知れません。

[e] 誤り。さすがに死後5日経っていれば、死後硬直は緩解し、腹部に腐敗変色は出てきていると思います。



死後経過時間を推定する問題です。(参考記事:「死後経過時間の推定①, ②」)

所見まとめは↓の通りです。

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法医学における文章問題の超王道ですね。

私が調べた中では、今回初めて出題されました。(もっと昔から出題自体はされていたと思いますが)

「初めての出題の割に結構難しいじゃん...」というのが私の感想です。笑


国試的には、大体直腸温を見れば死後経過時間を推定できちゃうんです。

【(37.0ー直腸温)÷0.8=[死後経過時間]】

で大体の時間が分かります。

ご遺体の各所見の中でも、唯一具体的な数字で出てくるので、ここさえ押さえれば解けちゃう問題も結構多いんです。

ところが、この方法の弱点が「すでに環境温に一致してしまっている(=体温が下がり切ってしまっている)場合は適用できない」ということです。

今回のケースが正にそうです。


環境温である22.0℃まで体温が下がり切ってしまっています。

これでは、前述のように「死後約18時間"以上"経過している」ということしか分かりません。。

初っ端から、こんな問題を出すなんて...!笑


ということで、他の所見から死後経過時間をさらに推定していく必要があります。

そうなってくると、きっと[c]と[d]で迷ってくると思います。

どちらも時間が近接してやや迷う選択肢ではありますが、、、

死後硬直の具合から「どちらかと言えば[c]か...」と選びたいところです。

実務上は、正直言って2日経っていても硬直がしっかり残っている稀にご遺体を経験することもあります。

しかし、ここでは国試ということで教科書的に理解しておきましょう。



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