111C20
60歳の女性.早朝に自宅敷地内の倉庫で梁にロープを掛け,縊頸した状態で発見された.近くから自筆の遺書が発見され,病苦が原因の自殺であること,対外的には病死として処理して欲しいことなどが記されていた.糖尿病による慢性腎不全のため,かかりつけ医で週3回透析治療を受けていた.かかりつけ医とは別の医師が警察官とともに臨場し,検案することとなった.
検案医の行動として正しいのはどれか.
a 死亡診断書を作成する.
b かかりつけ医に死体検案書の発行を依頼する.
c 索条痕がロープの性状と一致しているかを確認する.
d 作成書類の「死亡したとき」欄に死亡確認時刻を記載する.
e 作成書類の「死因の種類」欄は,死者の意向を尊重して病死とする.
正答は【c】です。
[a] 誤り。かかりつけ医とは別の検案医がにとって本事例は「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」には該当しないので、作成すべき書類は"死亡診断書"ではなく"死体検案書"です。
[b] 誤り。死体検案書を発行できるのは「自ら検案した医師」のみであるため(→医師法第20条)、検案を行っていないかかりつけ医に"死体検案書"は発行できません。また、本事例は生前に診療していた"糖尿病"や"腎不全"で死亡したとも考え難いため、かかりつけ医による"死亡診断書の作成"も不適です。
[c] 正しい。これは「縊頚」のご遺体を検案する医師にとって常識の確認事項です。当然ですが、索条痕とロープの性状が不一致であれば、別の索状物による絞頚なども念頭に考えていく必要があります。
[d] 誤り。「死亡したとき」欄は"死亡確認時刻"ではなく、文字通り"死亡時刻"を記載します。明確な死亡時刻がわからない場合であっても、できる限り死亡時刻を推定した上で記載することが求められています。
[e] 誤り。「死因の種類」欄は、死者や遺族の意向によって変えるべきものではなく、『最も死亡に近い原因から、医学的因果関係のある限りさかのぼって疾病(≒内因)か外因かで判断します。』ちなみに、本事例であればおそらく[⑨自殺]になります。
"検案医の対応"を聞いた珍しい問題です。
正答である[c]も、実際に検案を行っている医師にとっては当たり前のことなのですが、受験生にとっては若干難しかったかも知れません。
検案医にとっては、正答の他にも、
・全身の外傷の有無を確認する
・溢血点を確認する
・各種死体現象を確認する
...等々最低限のお作法がいくつもあります。
火葬してしまったら後戻りはできませんからね。
診るべき所見を見落とさぬよう、最大限の注意が必要なのです。
だからこそ、「生前診療をしていないご遺体の最後をみる」時には、それだけいくつものチェック項目があるというわけですね。
一方で、何となく[d]を選んでしまった方も多いのではないでしょうか。
残念ながら、確かに選択肢[d]をしてしまっている臨床医の先生もいらっしゃいますしね...。
しかし、"死亡確認時刻"なんて、悪用すればいくらでも作為的に変更可能なわけですから、やはりそういう意味でもきっちりと"死亡時刻"を推定すべきと思います。