超生反応 (ヒトは死後も生きている?)

前回の"生活反応"に関連して"超生反応"について書きたいと思います。

今回のテーマは【人は死後も生きているのか?】です。

「いや亡くなっているんだから生きているわけないでしょう」

そう思う方にはぜひ最後まで読んでいただきたいです。



結論から言うと、

ヒト全体としては死亡しても、個々の細胞はその後もしばらく生きていることがあります。

その種々の細胞によって起こる反応を"超生反応"と呼びます。

先に参考記事として [死とは?] を読んでいただけると幸いです。

それでは、詳しくみていきましょう。



改めて"超生反応"とは、『ヒトとしての個体が死亡した後も、個々の細胞が生きていることによって起こる反応のこと』を指します。

"個体の死"の定義は様々ありますが、ここは臨床医でも広く知られている"三徴候死"(脳・心臓・肺の永久的停止=死)を"死"として取り扱っていきます。

つまり『脳・心臓・肺の機能が止まっても、生き残った個々の細胞による反応がある』というわけです。

そんなこと本当にあるのか?と思う方もいらっしゃると思いますが、そんなことが本当にあるんです。

考えてみると、見方を変えれば、脳も心臓も肺も、(とても重要な役割を担っていますが)臓器のひとつに過ぎません。

これらの臓器は生命維持に必要なので機能停止しまうと最終的には全ての細胞の活動が止まってしまいます。(全細胞死)


しかし、その細胞死に至るまでの期間は細胞によって違います。

脳細胞は5分も酸素供給が途絶えると死んでしまいます。

逆に心臓の細胞は比較的低酸素に強いと言われ、脳がダメージを負っても心臓は動いているという現象は臨床でもよく経験されます。


法医学は"死の医学"ですから、この超生反応の研究も盛んに行われていました。

現代は倫理的な問題からなかなか研究されていませんが...。


法医学で有名な"超生反応"を挙げますと以下の通りです。


【筋肉の刺激興奮性の維持】:死後も横紋筋を電気刺激すると収縮する。死後3-6時間まで。
【消化管の蠕動運動】:死後も腸蠕動はしばらく続く。
【気管などの粘膜上皮の繊毛運動】:死後8−10時間まで。
【瞳孔反射】:死後もコリンエステラーゼ阻害薬の点眼によって縮瞳し、抗コリン薬の点眼によって散瞳する。死後4-15時間前後まで。
【発汗現象】:死後もアセチルコリンを皮内注射することによって発汗する。
【精子運動性の維持】:死後3-4日まで。
【骨髄内白血球の減少】

このような反応は、(三徴候)死後にも認められるとされます。

ものによっては1日以上経っても認められると言われる超生反応もあるので驚きですよね。


ただし注意しなければならないのは、これら『"超生反応"は"生命反応"ではなく、あくまでも"死体現象"である』ということです。

つまり、超生反応があるからといって「このご遺体は生きている」と判断するのは間違いです。

超生反応では、すでに個体死は起きていますので、この時点ではもう命は助けられません。



こういった超生反応現象は「死亡時刻の推定」を目的として研究されていたこともあったようです。

つまり『上記のような超生反応認められる=死後○○時間以内だ!』のような論理ですね。

ただいくら死後1日経っても認める超生反応があるとは言え、実際は亡くなって間もないご遺体でなければならないのは変わりなく、なかなか実用的ではないようです。



以上、"超生反応"について書いてきました。


冒頭の質問に立ち返りますと...

全細胞死をヒトの死と考えている人にとっては「ヒトは死後も亡くなったままである」

三徴候死などを死と捉えている人にとっては「ヒトは死後も生きている」

と言えるのではないでしょうか。


結局のところ、皆さんが『何がヒトの死であるか?』と考えることによって違ってくると思います。

皆さんは、死とはどういう状態だと考えますか?