第96回医師国家試験 I問題 問18 [96I18]

96I18
60歳の女性.前胸部痛を主訴に救急車で来院した.直ちに心電図検査を施行したところ典型的な急性心筋梗塞の所見が認められた.入院を指示した直後に心停止となり,来院1時間後に死亡した.診療録によれば患者は死亡の前日に前胸部痛で同僚のA医師の診察を受け,狭心症の疑いでHolter心電図と運動負荷心電図を予約して帰宅していた.
適切な対応はどれか.

a 死亡診断書を交付する.
b 死体検案書を交付する.
c 異状死体として警察に届け出る.
d A医師に対応を一任する.
e 行政解剖を依頼する.




正答は【a】です。


[a] 正しい。救急搬送後の診療の中で、当該医師が急性心筋梗塞の所見を認め、急性心筋梗塞による死亡という診断に至っているわけなので、「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」として、"死亡診断書の交付"で問題ないと思われます。

[b] 誤り。[a]の通り、搬送時に患者はまだ生存しており、その診療の中で死因となる疾病の所見を得ているため、「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」に当てはまると考えられます。そのため、"死体検案書"ではなく"死亡診断書"の交付が適切だと思われます。

[c] 誤り。問題文からは「異状を認めた」旨の記載はありません。死因も生前に診療していた傷病に関連した病死ですので、あえて異状死体の届出を行う必要はなさそうです。

[d] 誤り。確かに生前にA医師が急性心筋梗塞に関連しそうな狭心症を診療しています。ですが、あえてわざわざA医師に対応を一任する必要はなく、[a]の通り、搬送を受けた当該医師による死亡診断書の交付で問題ないと思います。

[e] 誤り。法医学者的には明確に"誤り"とも言えませんが、今回のケースでは生前にある程度しっかりとした急性心筋梗塞の所見が得られており、相当程度「その"急性心筋梗塞"で死亡した」と判断できる状況のようですので、"行政解剖"を依頼せずとも、病院医によって死亡診断書が交付されることは十分あり得ると思います。



症例問題ですね。

今回は「病院医によって死亡診断書が交付され得るケース」が問題として取り上げられています。


死亡診断書を交付するケースは『自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合』です。

ここまで「死因は生前に診療していた病死ですよ」と思わせるような詳細な情報が書かれていれば、そこまで回答には困らなかったとは思います。


もちろん、細かなことを言えば、

「急性心筋梗塞になった誘因は何か無いのか?」
「薬物中毒は除外できているのか?」
「その他、異状はなかったのか?」

などが挙げられますし、かかりつけ医ではない病院医のドクターの中には、このようなケースであっても死亡診断書を書きたくないという先生がいるかも知れません。

そのため「病理解剖や行政解剖を...」という気持ちがあったとしても、個人的にはその気持ちは分からなくもないです。

ただ実臨床では、今回の問題文にあるケースでは、正答のように「救急搬送先の病院医によって死亡診断書が交付されている」のが実際のところだと思います。



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