第97回医師国家試験 F問題 問2 [97F2]

97F2
61歳の男性.C型肝炎から肝硬変になり加療中であった.病院から自転車で帰宅の途中転倒し,左前額部を打撲し救急搬入された.治療の甲斐なく2日後に死亡し,病理解剖で左前額部挫創,180gの左硬膜下血腫,肝硬変および3cm大の肝細胞癌が認められた.
死亡診断書の「直接死因」欄に記入するのはどれか.

a 左前額部挫創
b 左硬膜下血腫
c C型肝炎
d 肝硬変
e 肝細胞癌




正答は【b】です。


問題文の情報から死因欄を書くとしたら↓下のようになります。

97F2-supp.jpg


[a] 誤り。問題文を読む限り、それまである程度日常生活していた人が転倒直後に急変し、解剖で硬膜下血腫も相当量確認されています。従って、本事例で致命的であったのは頭部外傷であると考えられます。ただし"左前額部挫創"はイ欄に書くべき死因であり、直接死因ではありません。

[b] 正しい。[a]の通り、"左硬膜下血腫"はア欄に書かれる死因で、これが直接死因(=直接死に繋がった死因)となります。

[c] 誤り。
[d] 誤り。
[e] 誤り。[a]に書いたように、臨床経過や解剖所見を考えると、今回致命的だったのは"C型肝炎・肝硬変・肝細胞癌"といった肝疾患ではなく、頭部外傷と思われます。従って、Ⅰ欄に記載されるのは頭部外傷に関係する病名です。もし肝疾患が関与したと判断しても、本事例ではⅡ欄に書くのが適切かと思います。



"死因の書き方"に関する文章問題です。

今回は「肝疾患を持つ患者が自転車で転倒し、頭部外傷で亡くなった」というケースです。


「180gの硬膜下血腫」というのは十分致死量と言っていい量ですので、やはり直接死因は"硬膜下血腫"になると思います。(ので(ア)に書きます)

この"硬膜下血腫"を引き起こした原因が"前額部挫創"ですね。

"左前額部挫創"は(イ)に書きます。

そして、この挫創の原因は"左前額部打撲"です。

従って、"左前額部打撲"を(ウ)に書きます。

この打撲(を引き起こした転倒)の原因は問題文に記載されておらず詳細は不明なので、死因欄はここで終わりで、原死因は"左前額部打撲"となります。

以上より、やはり頭部外傷が致命傷であり、これがⅠ欄に載ってきます。


「偶然このタイミングで、末期肝不全や末期肝臓癌が死を引き起こしたかもしれないじゃないか!?」と思う人もいるかも知れません。

確かに、欲を言えば、もう少し肝硬変(Child-Pugh分類)や肝癌の程度といった情報がほしいところです。

転倒の状況に関する記載もなく、どういった経緯で転倒が起きたのか?というのも分かりません。

とは言え、自転車で自宅と病院を行き来できるくらいの人が、肝疾患による全身状態の急激な悪化が起こったとは常識的には考えにくいです。

唯一記載されている肝臓癌に関する情報も「3cm大の肝細胞癌」ということで、個数は不明ですが、これが急死を起こしたとはやはり考えにくいです。


もちろん、各種肝疾患が"易出血性"を引き起こし、硬膜下血腫の経過に影響を及ぼした可能性はあります。

もし診察医がそのように「肝疾患が経過に関係ある」と判断したのなら、"Ⅱ欄に書く"ということは全然あり得ます。

ですが、前述のようにⅠ欄ではないので、本問の正答はやはり[b]が適切でしょう。


ちなみに本題では問われていませんが、本事例は「異状あり」と判断し得る状況だと思われます。

従って、検案時や解剖時に異状を認めた時から24時間以内に所轄警察署に届け出なければなりません。

病理解剖に回っているということは、検案時に異状死体届出を行って問題なしと判断されているのかな...?



97F2.jpg