今回は肩の力を抜いて「法医学者あるある」です。
医者の中でも特殊な存在である法医学医。
私自身が実際に経験したことを中心に"あるある"を書いていきたいと思います。
・解剖後は極力エレベーターは使わない
・マイ長靴を持っている
・検視官や警察官と仲良くなる
・バイト先で死亡診断書の書き方を聞かれる
・海や山に行くと人気のないところが無駄に気になる
・職業を聞かれた際に何と言っていいか迷う
これらの"あるある"に加え、文末には臨床医の先生からしばしば言われる4つの"フレーズ"も含めて今回は書いていきたいと思います。
【解剖後は極力エレベーターは使わない】
これは何となく真っ先に思いました。
解剖後はどうしても体ににおいが付いてしまいます。
ご遺体が傷んでいる場合だけでなく、溺死、死蝋、出血などの特有のにおいがあるものから、そうでないものまで、どんなご遺体の解剖であっても体ににおいは付くのです。
ですので、周りの影響も考えて極力エレベーターは使用しません。
自分自身はにおわない気がしても、他人からすると十中八九におうようですから。(事務員さん談)
解剖室は地下にあることが多いですし、解剖後はクタクタになっているので、エレベーターを使いたくなるんですけどね...そこは我慢です。
何なら学食へ行くのも控えているくらいです。
【マイ長靴を持っている】
これは多くの法医学者が該当するのではないか?と私は思っています。
ガウンや手袋などは基本的にディスポを使用するのですが、長靴は綺麗に洗って使い回します。
そうなってくると、自分のサイズのこともありますし、いつの間にか"マイ長靴"が出来てくるんですよね。
教室の備品に名前を書いてマーキングする先生もいれば、私はネットで良い感じのものを購入しました。
毎回履くものですので結構痛むのも早いんですよね。
傷んだら新調です。
【検視官や警察官と仲良くなる】
これは言わずもがなですよね。
検視官は都道府県にそんな多くいるわけではありません。
令和元年時点で全国に検視官は364人だそうです。(実際は"検視官補助者"という方もいらっしゃいます)
47都道府県で割ると、検視官は1都道府県あたりに平均7.7人です。
実際は都市部で多く、地方では少ないので、もっと7人以下のところもあります。
また彼らは検視官になる際に法医学教室で研修を受けるんですよね。
私たちの教室にもやって来るんですが、その時は初々しかった検屍官の方々が時を経て立派に働いている話というを聞くと嬉しいものです。
警察官(一課)の方々に関しても、解剖経験が増えてくると当然段々と顔馴染みになってきます。
解剖が続いた時には「◎◎さん、最近〇〇署が続きますね。」なんて会話もしばしばあります。
私は街中ですれ違えば声を掛けられたりもします。 (※職質的な意味ではなく)
世間のイメージはどうかわかりませんが、皆さん良い意味で人間臭い人ばかりです。
これは私自身も法医学者になる前は持っていなかった印象ですね。
【バイト先で死亡診断書の書き方を聞かれる】
これは臨床バイト先の病院でよくあった経験です。
「法医学が専門です」という話をすると、結構な頻度で死亡診断書を書く際にアドバイスを求められます。
"死因の決定"に関してというよりは"記載法・書式"に関する質問が多い印象です。
私は夜間当直が多かったので、1番多かった質問は『死亡診断書か?死体検案書か?』ということですね。
死亡診断書(死体検案書)記入マニュアルに沿ってご説明はしていましたが、実際は結局院内のルールに従って書いていることが多かったですね...。(参考URL:「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」)
それでもやはり専門家?として頼られるのは当時も嬉しかったです。
【海や山に行くと人気のないところが無駄に気になる】
これは少し誇張が入っているかも知れません。
ただプレイベートで海や山に行った際、人気のないところがあったりすると、少しだけ気になったりすることは実際にあるんです。
普段そういう場所でひっそり亡くなられているご遺体を見ていますからね。
私自身経験はありませんが、そんなところで「力なくぼんやりしている方」を見かけたら声を掛けてしまうかも知れません。
【職業を聞かれた際に何と言っていいのか迷う】
これは私にとっては結構"あるある"なんですよ。
自己紹介でも契約書の記入でも、私は職業に関して「法医学者」とは言いづらいんですよね。
別に"法医学者"という職業に後ろめたさがあるわけでは一切ありませんよ!
単純に「まだまだ認知度が少ない」「説明がややこしくなるから」というので避けがちなだけです。
かといって"医者・医師"と言うと、それは間違いではないのですが、世の中では「医者≒臨床医」ですから、それも少し違う気がしますし。
アルバイトをしていた頃は「医者です」と言っちゃっていることが多かったですかね。(主収入の意味でもそれが妥当かなと)
最近は言うことも聞かれることもないですが、その時が来たらどうしよう...。
"あるある"は以上です。
最後で触れた"認知度"に関して続けたいと思います。
私の経験の上は、"法医学(者)"について一般の方は全く知らないことも実際は多いです。
その点、臨床医の先生方となると、法医学に対するイメージは多少なりとも持っていることが多い印象があります。
この理由はきっと『短期間ではあっても大学で法医学に触れる機会があるから』でしょうね。
ただそこはやはり"漠然"なので、法医学を勘違いしていたり、その誤解から来る質問を受けたりします。
それを最後にちょっとだけ触れたいと思います。
フレーズ①「法医学...大事だよね!」
これは私が「法医学が専門です」「法医学に進むつもりです」と言った次に臨床医の先生から出てくることが多いフレーズです。
前述のように、法医学の重要性は大学の講義を通して理解してくださっているのだと思います。
その上で「おぉ...」という一瞬の"引き"があった後、絞り出した言葉ではないか?と勝手に妄想しています。
私は研修医を終える頃、多くの指導医の先生からこのお言葉を頂戴いたしました。ありがとうございます。
フレーズ②「そう言えば以前ゼクをお願いしたことあるよー。」
これは知り合いの先生とお話した際に言われた言葉です。
"ゼク"とは主に病理解剖を指します。(たまに"系統解剖"を指すこともあります)
なので、この先生は法医学を病理学と完全に間違っています。
実際に何度かこの言葉を言われたことがあります。
最初のうちはきちんと説明していましたが、疲れ果てた今は「ハハハ...」と不器用な相づちを打って終わりにしています。
フレーズ③「バイトとかどうしてるの?」
このフレーズは割と仲が良く法医学に興味を持ってくれている臨床医の友達から言われます。
質問の裏には、
「"法医学者"としてのバイトはあるのか?」
「非臨床でやっていけるのか?」
という意味合いもあると思いますが、ここは普通に「臨床のバイトをやっているよ」と答えますね。(参考記事:「法医学者のバイト」)
フレーズ④「専門医とかってあるの?」
先ほどよりさらに法医学に興味を持ってくれている臨床医の先生から聞かれます。
法医学は臨床専門医制度には入っていないので、そこから出てくる疑問なんだと思います。
ちなみに答えは『日本法医学会が認定する"法医認定医・法医指導医"がある』になります。
ということで、今回は"法医学者あるある"を書いてきました。
今回は同業の法医学者には『あるある!』と強く共感してほしい...そんなテーマでした。
一般の方々にも、そんな法医学者の生態を是非今後とも知っていってもらいたいですね。