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69歳の男性.自宅のかもいにヒモをかけ首を吊っているのを午後6時半ころ帰宅した家族に発見された.家族はすぐにヒモを切断し,男性を仰向けに寝かせ,身体を揺り動かし呼びかけたが,身体は冷たく全く応答はなかった.診療所の医師に連絡したところ,午後7時に医師が到着し,死亡の確認後,死体の検案が行われた.直腸温34.0℃.室温22.0℃.顎,肩および股関節の硬直が軽度である.
検案時の死斑の出現部位はどれか.
a 顔面
b 下半身の背面
c 下半身全体
d 全身の背面
e 全身
正答は【d】です。
[a][b][c][e] 誤り。
[e] 正しい。ご遺体は死亡のおよそ3時間後に仰向けにされてたと考えられます。死後3時間ではまだ死斑は移動し得ますので、仰向け姿勢時の重力下方向、つまり"全身の背面"に死斑が出現(移動)します。解説の詳細は後述します。
これは"死斑の移動"に関する問題です。
難しいですが、個人的にはよく練られた良問だと思います。
死斑の出現部位を考える場合、必ず死後経過時間をまず考えなければなりません。
本事例のように、ご遺体の体位が死後に変化させられた場合、
① 死後比較的短時間(死後〜約5時間以内)で体位変換 → 死斑のに移動性があるため、体位変換後の姿勢に基づいた死斑の形に全てが移動する。
② 死後比較的長時間(死後約10時間以上〜)経ってから体位変換 → 死斑が固定する(移動性がなくなる)ため、体位変換前の姿勢に基づいた死斑の形のまま。
③ その中間あたりの時間(死後約7〜10時間)で体位変換 → 死斑の一部は固定しており、一部は移動するため、体位変換前後の死斑の形がどちらも認められる。(="両側性死斑")
このように、死後経過時間によって違うことから、本問題でも死後経過時間をまず考える必要があるのです。
幸い、ご遺体の直腸温が室温に一致していないので、直腸温から簡単に概算できます。
【( 37.0 ー 34.0 ) ÷ 0.8 = 3.75 (時間) 】
よって、検案時の午後7時時点では"死後4時間弱"経っていたということになります。
そして、家族の手によってご遺体が仰向けにされたのが、その30分前、つまり「"死後約3時間"で体位変換させられた」ということになります。
"死後3時間"ということは、上のパターン①(=全ての死斑が移動する)ですね。
なので、体位変換後の仰向けに基づいた死斑の形 → 「全身の背面に死斑が出現」となるのです。
ちなみに、
死後10時間以上経ってから仰向けにしたら(パターン②) → 死斑は首を吊った状態の形で固定されるので → 下半身全体
死後7〜10時間で仰向けにしたら(パターン③) → 両側性死斑なので → 下半身全体 + 全身の背面
という死斑の出現部位になります。
また、一旦下半身に死斑移動してから次に背面に移動するのなら、選択肢[b]のように「下半身の背面」になるんじゃないの?と思った人もいると思います。
確かにそうなりそうではあるんですが、実際には死斑が重力を受け再度広がっていくため、全身の背面に死斑が出現します。
この現象を受験生に聞くのはさすがに難しすぎるとは思います、、、せめて選択肢に入れないべきだったかな?
あと"出現部位"と聞かれると若干戸惑うかも知れません。(→"検案時にどこに認められるか?"という聞き方とか)
とは言え、"死斑の移動性"を問う問題としてはかなり良い問題だと思います。(推理小説とかに出てきそう)
「死後経過時間を推定してから、やっと本題にたどり着く」という2段構えが素晴らしいです。
...ちなみに、当時の受験生の半数も正解できなかったくらい、正答率はかなり低かったようです。。