今回は我々"法医学者がみる死因"について書いていきたいと思います。
日本人の死因で最も多いのは"悪性新生物(≒がん)"というのは誰でも出てくると思います。
では我々「法医学者がみる死因もがんが多いのか?」と言われるとそうではありません。
実は"虚血性心疾患"が約3割を占めており最も多いんです。
つまり心臓の病気です。
詳しくみていきたいと思います。
今回のデータについては、東京都監察医務院が毎年出している統計データを使用させていただいています。
URL:https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kansatsu/database/index.html
東京都監察医務院で令和元年(2019年)に検案した13984件のご遺体を対象としています。
とりあえずグラフを見た方が分かりやすいと思うので始めに出してしまいますね。
1つ目の画像のように、最も多いのが全体の約7割を占める"病死"です。
その病死の内訳をみると、その病死全体の7割を占めて最も多いのが"循環器疾患"です。
さらにその循環器疾患の内訳をみると、その7割を占める"虚血性心疾患"が最も多いという結果になります。
ということで、全体をからみますと"虚血性心疾患"が検案を経た死因の3割ちょい(32.3%)を占めます。
つまり『法医学でみる疾患のうち3人に1人が"虚血性心疾患"である』ということですね。
前後しますが、「"虚血性心疾患"とは何か?」と思う方も多くいらっしゃると思います。
これは『酸素や栄養を運ぶ血液が心臓・心筋へ供給できなくなった状態』を指し、動脈硬化で血管が細くなったり、詰まったりすることで起こることが多いです。
臨床医学では、"急性冠症候群"や"狭心症・心筋梗塞"なんていう病名で呼ばれることもあります。
ただし法医学では、心電図が確認できなかったり、超急性期過ぎて解剖時には梗塞巣が確認できないことから、臨床でのような病名は使わず、"虚血性心疾患"という用語を使用しています。
以前書きましたが、この3割も占める"虚血性心疾患"の死後診断がなかなか一筋縄にはいかないんですよね...。難しい。
逆に"虚血性心疾患"のような「一見して診断しづらい」からこそ我々のところに回ってくるという見方もできると思います。
その他の項目をみますと、なかなか臨床ではみない"災害死"や"自殺"が一定数あるのは特筆すべき点でしょうか。
ここでの"災害死"は、地震や雷などの自然災害だけでなく、交通事故や労働災害などの人為的災害(人災)も含まれています。
こちらに関しては、「どれかが群を抜いて占めている」という形ではなく、様々な死因が満遍なく認められています。
"自殺"の項目をみますと、過半数が"縊死"という手段が選択されています。
次に"飛び降り"が2割、"薬毒物中毒"が1割と続きます。
全体の1割ほどを占める"不詳の死"の多くは高度腐敗や白骨で死因が分からないケースです。
それでは、日本の死因で最も多い"悪性新生物"はどうなのか?
【全検案中の約3%】です。(419/13984人)
これしかないんです。
法医学ではいかに珍しいか?が分かっていただけると思います。
それだけかかりつけ医や臨床医の先生方がみておられるということですね。
東京都監察医務院、大阪府監察医事務所(https://www.pref.osaka.lg.jp/kansatsui/shiintoukei/index.html)、兵庫県監察医務室(https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf15/siintoukei.html)では毎年このような統計データを公表しています。
日本全国の死因統計というのは毎年取り上げられますが、監察医の統計データはなかなか取り上げられず、個人的には少し不満です。
監察医制度が全国ではないのが残念ですが、お住まいの地域が該当する方には特に是非一度見ていただきたいですね。