107B40
86歳の女性.発熱と意識障害のため搬入された.搬入時の意識レベルはJCSⅡ-10.体温38.3℃.脈拍112/分.血圧122/56mmHg.呼吸数30/分.SpO2 98%(マスク4L/分酸素投与下).膿尿と末梢血白血球増多とを認め,尿路感染症に伴う敗血症と診断し緊急入院とした.高度の貧血に対して濃厚赤血球2単位を輸血するとともに,乳酸リンゲル液の急速輸液とセフェム系抗菌薬の点滴投与とを行った.いったん状態は安定したが,翌日の深夜,モニターのアラームが鳴ったため看護師が病室に駆けつけたところ心肺停止状態であった.直ちに心肺蘇生法を行ったが,反応せず死亡した.
まず行うべき対応はどれか.
a 遺族に状況を正確に説明する.
b 遺族に医療過誤であると告げる.
c 第三者医療事故調査機関に届け出る.
d 医療事故として所轄の警察署に届け出る.
e 死因を尿路感染症とした死亡診断書を発行する.
正答は【a】です。
[a] 正しい。医師として当然の対応だと思います。経過や現時点で分かっている病状等をまずはしっかりご遺族にお伝えする必要があります。
[b] 誤り。今の今まで救命のフェーズだったわけです。まだ全容が全く明らかになっていないこの状況で、すぐさま医療過誤と断定すべき段階ではないと思われます。
[c] 誤り。本事例がもし「病院、診療所、助産所に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、その管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの」であるなら、医療事故調査制度に則り、遺族にその旨を説明した後、センターに今後報告することもあるかと思います。しかし、患者の死亡直後に"まず"行うべき対応としては、遺族への状況説明だと思います。
[d] 誤り。確かに、検案して"異状死体"と判断した場合は"24時間以内"に所轄警察署に届け出なければなりません。しかし、"まず行うべき"は遺族への説明だと思います。また「"医療事故"として警察署に届け出」という表記には個人的に少し違和感があります。(→「"異状死体"として警察署に届け出」なら分かる)
[e] 誤り。「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」と考えられますので、最終的には"死亡診断書の発行"になる可能性十分にあります。ただし、"まず行うべき対応"はやはり選択肢[a]と思います。
ウロセプシスの症例問題です。
正答は法医学問題とも言いにくいですが、選択肢に法医学的事項が含まれていたので取り上げました。
選択肢の中には"医療事故"に関連した語句が並んでおり、医療関連死を念頭に置いた問題なのかも知れません。
※日本医療安全調査機構HPより
選択肢[c]の解説でも触れましたが、医療事故調査制度における"医療事故"の定義は下記の通りです。
医療事故:病院、診療所、助産所に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、その管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの。
とは言え、問題文を読む限りは、上記のような"医療事故"と判断される記載はない気がします。(セフェム系ではなくもっと広域のカルバペネム系の方を選択すべきだったということ?)
尿路感染症の原因についても、詳細な記載はないので不明ですが、少なくとも"提供した医療に起因した"とは判断できません。
ちなみに、「医療事故である」と"医療機関の管理者"が組織として判断した場合は、"医療事故調査・支援センター"に報告されます。(※この制度として、医療事故の判断は遺族ではない)
従って、この制度で進めるのなら、選択肢[d]の解説の通り、「警察署へ届け出る」は誤りとなります。
警察署へ届け出るのは、あくまで医師法21条に基づく"異状死体"の届出だからです。
また死因についても"尿路感染症に伴う敗血症"と判断しているのなら、「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」として診断医による"死亡診断書の交付"で問題はありません。