法医学では、臨床ではなかなか見られない所見に出会うことがあります。
そのひとつに"腹膜ネズミ"というものです。
ネズミという名前がついていますが、決してリアルな鼠がお腹の中を這っているわけではありません。
今回はそんな"腹膜ネズミ"をご紹介したいと思います。
【腹膜ネズミ】:文字通り、腹膜内に生じた遊離体のこと。何らかの原因で腹膜垂(大腸にぶら下がる脂肪)の一部が脱落したものと考えられている。繊維化や石灰化などしていることが多い。病的意義は基本的にない。
※Wikimedia Commonsより
詳しくみていきましょう。
上記の説明のように、"腹膜ネズミ"とは、「大腸に垂れ下がった脂肪が取れたもの」を指します。
大腸の表面には、"結腸ヒモ"という筋が走っています。
その"結腸ヒモ"に垂れ下がるように"腹膜垂(結腸脂肪垂)"と呼ばれる脂肪の塊が付いています。
※Wikimedia Commonsより
↑画像は大腸憩室症ですが、傍に見える黄色い脂肪が腹膜垂です。
そして、その腹膜垂が何らかの原因(炎症や梗塞、捻転など)で線維化・石灰化して脱落したものが、"腹膜ネズミ"の正体です。
脱落した組織であるため、姿勢や体位を変えると腹膜腔内をコロコロ動き回ります。
この様子から『腹膜(内の)ネズミ』と呼ばれるわけですね。
前述の通り、これがあるからと言って特に身体に害はありません。
解剖でも「あぁ、この人は腹膜ネズミを持っていたね」となるだけです。
それでも初めて見た時は私も「なんだこれは!?」となりましたけどね。
以上、今回は簡単に"腹膜ネズミ"について説明しました。
法医学では、こういった「病的意義は乏しいが、解剖でしばしば認める所見」というのがあります。(参考記事:「絞扼肝」)
また今後もこのブログでご紹介していきたいと思います。