107C22
60歳の男性.心肺停止状態で家族の車で運ばれてきた.家族によると,「先ほどの地震で物が落ちて来て頭に当たって倒れた」という.右側頭部に約10cmの挫創があり,頭蓋骨が陥没している.死斑と死後硬直があり,心肺停止後数時間が経過していると考えられた.警察に届けなければならないと家族に説明した.
届出の根拠となる法律はどれか.
a 医師法
b 医療法
c 刑事訴訟法
d 死体解剖保存法
e 災害対策基本法
正答は【a】です。
[a] 正しい。
[b][c][d][e] 誤り。
本事例は「確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体」とは言えないため、異状死体の届出を行うべきだと考えられます。この"異状死体の届出"は医師法21条が根拠法です。「医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。」
"異状死体の届出"に関する症例問題です。
結論から言うと、医師が警察に届け出得るのは基本的に下記の2パターンです。
・異状死体の届出 (医師法 第21条)
・配偶者からの暴力被害者の届出 (DV防止法 第6条第2項)
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律 第6条 第2項
医師その他の医療関係者は、その業務を行うに当たり、配偶者からの暴力によって負傷し又は疾病にかかったと認められる者を発見したときは、その旨を配偶者暴力相談支援センター又は警察官に通報することができる。この場合において、その者の意思を尊重するよう努めるものとする。
そして、このうち義務なのは前者の"医師法第21条に基づく異状死体の届出"だけです。
従って、これだけで問題は解答できてしまいます。
ただし、これが公務員医師、例えば国公立病院の医師である場合は若干違ってきます。
刑事訴訟法 第239条2項の規定に"公務員の告発義務"というのがあります。
第239条 第2項 官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。
この規定によって、例えば、医師が診療目的に採取した尿から覚醒剤反応が出て、その結果を以て警察に通報することは正当行為として許容されるものであり、医師の守秘義務に違反しないとされます。(参考判例:平成17年(あ)第202号)
このあたりは国試レベルを超える内容なので、興味がある方は調べてみるくらいで全然大丈夫です。
ちなみに、警察以外が届け出先であるパターンとしては、
知事:麻薬中毒者の診断、診療所開設、不妊手術・人工妊娠中絶の実施
保健所長:指定感染症の診断 (※ただし保健所長を経由して最終的に知事へ行く)
児童相談所等:児童虐待を受けたと思われる児童の発見
などが挙げられます。