第108回医師国家試験 G問題 問66 [108G66]

108G66
65歳の男性.頭部挫創を主訴に来院した.
現病歴:飲酒後,家の階段の下で倒れているところを帰宅した家族に発見された.頭部に挫創を認めたため家族に付き添われて受診した.
既往歴:心房細動のためワルファリン内服中.
生活歴:定年退職後無職.
家族歴:特記すべきことはない.
現症:アルコール臭があるが意識は清明.ただし,本人は受傷時のことは覚えていない.脈拍80/分,不整.血圧150/90mmHg.呼吸数24/分.頭頂部やや後方に3cmの挫創があり出血を認めた.身体の他の部位に創傷は認められなかった.
検査所見:頭部CTでは頭蓋骨骨折は認められず,後頭蓋窩にごくわずかな硬膜下血腫が認められた.
蘇生しつつ撮影した頭部CTでは,硬膜下血腫の増大と小脳内の遅発性外傷性脳内血腫が認められ,脳幹を圧迫する所見が認められた.患者はその1週後に死亡した.
死亡確認後の主治医の対応として適切でないのはどれか.

a 異状死と判断する.
b 所管する保健所に届け出る.
c 届出を24時間以内に行う.
d 警察官の検視を受ける.
e 警察医の死体検案を受ける.




正答は【b】です。


[a] 正しい(=適切である)。死因は頭部外傷を発端とした"外因死"と判断できます。これは「確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外の全ての死体」に該当するため、異状死体として警察に届け出るべきだと思われます。

[b] 誤り(=適切でない)。異状死体の届け出先は"所轄の警察署"であり、"保健所"ではありません。指定感染症や麻薬中毒の場合は保健所へ届け出を要しますが、問題文からそうと判断できないため、"保健所"の届け出は不要と考えられます。

[c] 正しい(=適切である)。異状死体の届出は「異状を認めてから24時間以内」です。医師法 第21条「医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

[d] 正しい(=適切である)。異状死体の届け出後、検察官もしくは司法警察員の検視を(ご遺体が)受けることになります。

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[e] 正しい(=適切である)。↑の画像の通り、警察による検視で"非犯罪死"と判断された場合は、警察医や一般臨床医による検案を行った後、当該医師による死体検案書の交付が行われます。



患者の死後の対応についての問題です。

明らかに[b]だけ異質な選択肢なので、深く考えなくても解けてしまいますね。


【異状死体】:確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外の全ての死体。

この"異状死体"の定義に当てはまる場合は、少なくとも国試においては、警察に届け出る行動を選択すべきだと思われます。



飲酒後の転倒・転落による頭部外傷・外因死...法医学でもしばしば経験される事例です。

問題文には"外傷性"と断定しているようですが、

本当に外傷性なのか?
内因性の頭蓋内出血が先行したのではないか?

この辺りはどういう根拠で判断されたのか、法医学者として個人的に気になりますね。



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