死亡時刻を推定する際、一つの方法だけでは誤差・個体差が大きいため、多角的な手法を用いて推定する必要があります。
・直腸温法(深部体温法) 「参考記事①」
・死斑の転位 「参考記事②」
・死後硬直の程度
・角膜混濁の程度
・腐敗緑変の程度
このような方法で"死後経過時間"を推定し、検案した時刻から逆算することである程度の死亡時刻を推定することができます。
この他にも、やや原始的?な推定法があります。
それが"食後経過時間"を用いた死亡時刻推定法です。
今回はこの"食後経過時間"について書いていきたいと思います。
【食後経過時間】:文字通り「食後からどれくらいの時間が経ったか?」というもの。これを最終食事時刻に加えることで死亡時刻を推定する。(※最終食事時間が分からなければ適用できない)
推定時間の目安は↓以下の通りです。
『胃内に食べ物がほぼ未消化のまま存在する』→ "食直後"に死亡した。
『胃内に消化途中の食べ物が存在する』→ "食後1時間"ほどで死亡した。
『胃内および十二指腸内の両者に消化物が存在する』→ "食後2〜3時間"で死亡した。
『胃内に食べ物が存在せず、十二指腸には存在する』→ "食後3〜4時間"で死亡した。
『胃内および十二指腸内の両者に食べ物が存在しない (小腸に便が存在する)』→ "食後5〜6時間"で死亡した。
『小腸下部〜大腸に便が存在する』→ "食後6〜12時間"で死亡した
一応、教科書的には↑のようになっています。
しかし、あまりに個人差が大きいため、個人的にはそこまで信用していません。
詳しく解説していきます。
上で触れたように、この食後経過時間による死亡時刻の推定法は、まず大前提として"最終食事時間"が判明していなければ使えません。
近年は単身者の孤立死・孤独死も多いですが、そのようなケースでは使えないことが殆どであるということです。
その上で、"最終食事時間"が既知であって初めて適用することができます。
我々人間は、口から食べ物を嚥下すると、後は自動的に胃蠕動・腸蠕動によって消化吸収が進んでいきます。
その"進み具合"を逆手にとったのが、↑の消化管内容物の消化程度・位置による目安時間です。
あとは、この食後経過時間を"最終食事時間"に加えれば、"死亡推定時間"となるわけです。
ちなみに、一般的には、口から食べたものは大体"24〜48時間後"に便として排泄されます。
従って、消化管の内容物は1〜2日以内の状況を反映しているということですね。
この方法のメリットは「"死後経過時間"を考える必要がない」と言えます。
冒頭に挙げた各種推定法は"死後経過時間"を推定するのに対して、この方法では"食後経過時間"を推定しています。
このため、理論上は「(死後経過時間のように)死後置かれていた環境に左右されることはないはず」です。
とは言え、腐敗が進んでくるなど、死後経過時間が長くなると、消化管内容も腐敗・乾燥するため、結局適用できません。
なおかつ、前述のように上記目安時間はあくまでも"目安"に過ぎません。
パンやお粥などの消化しやすい食べ物と、雑穀や野菜のような難消化物が全く同じ挙動はしないでしょうし、今日、高齢者の多くは便秘がちです。
腸蠕動は自律神経の働きとも深く関わっています。
また胃内排出時間は食事量にも関係しており、当然ですが、たくさん食べれば胃内に貯留している時間は長くなり、少量であれば比較的短時間で胃内から出て行きます。
そういった要素を考えると「こんな杓子定規な数字に大きな意味はあるのか?」とすら私は感じてしまいます。
それでも肉眼的にイメージしやすいので、非医療従事者(警察官等)はとても興味を持つようなのですが...。
以上から「正確性に乏しい」という致命的なデメリットがあります。
決して過信することなく、ざっくりと「これくらいかな?」位の認識が良さそうだと思います。
今回は"食後経過時間"を取り上げました。
実際はなかなか使用するには"難あり"な方法ですが、理屈は単純で、肉眼的にも分かりやすいことから、好きな人は確かにいます。
ただ何度も言うように、その適用や結果については慎重に考える必要があると言えます。
やはり死亡時刻をより正確に推定するには、"いろいろな方法を駆使して、総合的に判断せざるを得ないでしょう。