今回は「法医学者の忙しさ」について書いていきたいと思います。
皆さんは法医学者の仕事について、どのようなイメージを持っているでしょうか?
ドラマを観ていると「プライベートも充実して子育てにも奮闘して...」という感じで、割とゆったりとしているイメージを持っているかもしれませんが、意外?と忙しいです。
以前法医学者の生活についての記事を書きました。
参考記事:「法医学者の一日」
参考記事:「法医学者の休日」
ここにも書きましたが、法医学者の業務の三本柱として"①解剖 ②研究 ③教育"があります。
どれも欠くことはできません。
そうなってくると、実際は『ゆったりとできる日は決して多くない』です。
詳しくみていきましょう。
三本柱のうち、①解剖は社会的意義も高く、社会的責務としても重要です。
解剖当日に終わりではなく、後日出てくる結果を踏まえて報告書を作成することになります。
それが日々どんどんと積み重なっていきます。
②研究は将来のキャリアアップとして必須です。
"科研費"という研究のための補助金・奨励金(採択率3割弱)を貰えるよう申請し、認められて初めてある程度満足のできる研究のスタートラインに立てます。
それから研究結果をきちんと出して発表し、また科研費を申請し...
これを数年毎に繰り返して研究実績を積み重ねます。
そして、この実績が評価されることでキャリアアップに繋がっていきます。
③教育は大学教員として当然の義務です。
大学に所属する以上、学部生や大学院生に指導することが求められます。
その業務も含めて大学からお給料を貰っているわけですからね。
以上より、これら3つはどれもこなせていけないといけません。
この程度の忙しさは、ある意味大学教員にとっては当たり前と言えば当たり前なのかも知れません。
しかし、これに拍車をかけているのが「法医学者不足」なんです。
全国の多くの大学で、法医学者・法医学医が足りていません。
また上記3つに関しては医師以外の法医学者にお任せするわけにもなかなかいきません。
そうなってくると、必然的に一人当たりの法医学医が負担する①②③の業務三本柱の割合は増えてします。
だからこそ、ポストの問題はあるのですが、法医学医の数を増やすのは急務だと言えるのです。
今回「法医学者は忙しい」という内容を書きましたが、決して同情してほしくて書いたわけではありません。
法医学者を目指す学生さんにひとつだけ伝えたいことがあるんです。
それは厳しいようですが『やりたいことだけをやっていけるわけではない』ということです。
前述のように、法医学者にはやらなければならない日々の業務が結構あります。
やりたいことがある場合、それらをこなした上で、やっていく必要があります。
昨今「○○に興味があります」「将来○○をやりたいです」と法医学に興味を持ってくれる学生さんがちらほらいます。
これ自体はすごく嬉しく喜ばしいことです。
ただそのためには実際それ以外の業務もきちんとやらなければなりませんし、やりたいことだけをやっていくことは現時点の法医学界ではなかなか難しいです。
法医学にはいろいろな分野があるので、だからこそ特定の分野に強く興味を持つことは全然普通のことです。
私自身も、興味のある専門分野があります。
そして、それを運良く研究テーマに昇華できているので、そういう意味で本当に恵まれているなと感じています。
ですので、もしどうしてもやりたいことがあるのなら
『(大学院研究も含め)研究テーマにしてしまう』
のもひとつの解決法だと思っています。
そのためには、法医学教室のHPなども参考にしながら大学院を選ぶ時点でそのテーマを専門に研究している大学院・法医学教室を探し出す必要がありますし、そこの教授にも相談する必要はあります。
分からないことも多く大変なこともあるかと思いますが、妥協せずご自身の納得のいく選択を是非してほしいです。