リアルタイムPCR (qPCR) -Taqmanプローブ法による絶対定量-

以前PCRについて解説しました。

今回はそれを踏まえて、PCRの発展技術として"リアルタイムPCR"を書いていこうと思います。

この"リアルタイムPCR"は、定量のために行われることから"定量PCR"[=quantitative PCR]、通称"qPCR"とも呼ばれています。

参考記事:PCR (ポリメラーゼ連鎖反応)


おさらいしますと、PCRでは、

・(DNA)ポリメラーゼという酵素
・目印となる2つのプライマー

これらを温度を調節しながら、「特定のDNA配列を倍々にしていく」というものでした。

このPCRを"リアルタイム"にモニタリングすることで『元々のDNA量を推定する』というのが"リアルタイムPCR"の本質になります。



PCRは2つのプライマーで挟んだ特定のDNA配列を2倍4倍8倍...と増やしていく技術でした。

リアルタイムPCRでは、

1回目の増幅(DNAは元の2倍へ)→モニタリングする
2回目の増幅(DNAは元の4倍へ)→モニタリングする
3回目の増幅(DNAは元の8倍へ)→モニタリングする

...と、1回のPCR増幅過程毎にDNAをモニタリングしていきます。

そうすると、どこかのタイミングで設定したDNA量を超えることになります。

realtime-PCR1.jpg


元々のDNA量が多ければPCR回数が少なくても基準線を超えてきます。

逆に元々のDNA量が少なければPCR回数が多くないと基準線を越えません。

この"基準線を越えた時のPCR回数"を比較することで、DNA量を推定するわけですね。


もう少し詳しく解説していきます。



リアルタイムPCRの目的は『試料中のDNA量を推定すること』です。


DNAを頑張って採取しても、その試料中のDNA量は初めは不明な状態です。

何なら、DNAは通常目に見えませんので、その試料の中にターゲットとするDNAがそもそも含まれているのか?すら分かりません。(運悪く採取失敗していても分からない...)

そのために「試料中にDNAがどれくらい含まれているのか?」を推定する必要が出てくるのです。


原理としては、簡単には前述の通りです。

PCRをかける毎にコピーされたDNAをモニタリングします。

正確には、"DNA量"自体は分からないので、PCR時にコピーされたDNAが光るように細工し、その光の強さを毎PCRで測定します。



その"細工"とは以下の通りです。

PCR自体は以前説明した方法論と同じです。(参考記事:「PCR」)


リアルタイムPCRの手法にはいろいろありますが、"Taqmanプローブ法"という方法が有名です。

文字通り"Taqmanプローブ"というものを使います。


Taqmanプローブは増幅したいDNA配列部分にくっつくように人工的に設計されています。

そして、このTaqmanプローブには以下の2物質がセットになっています。

レポーター:実際に光る物質
クエンチャー:レポーターの発光を抑える物質


これらがセットになっている状態(初期状態)では、クエンチャーによってレポーターの光は抑えられています。

DNAポリメラーゼによってDNA合成反応が進んでくると、くっついていたTaqmanプローブが分解され、レポーターとクエンチャーがバラバラに離れます。

そうなると、クエンチャーの抑制から開放されるため、レポーターは発光するんですね。

realtime-PCR2.jpg

realtime-PCR3.jpg

realtime-PCR4.jpg


この光の強さを毎回のPCR毎に検出することで、DNAのコピーをモニタリングするわけです。


その後、PCRを繰り返していくと、どこかのタイミングで規定していた基準線を超える光の強さになります。

realtime-PCR5.jpg


この基準線を初めて超えるPCR回数を専門用語で"Ct値"といいます。

このCt値は初期DNA量が多ければ多いほど低くなります。(→少ないPCR回数で基準を超える)

これを利用します。


ところが、基準を超える回数が変わっても、その時のDNA量は分からないため、結局そこから初期DNA量を計算することはできないです。

そこで、DNA量を推定するには、予め量のわかっているDNA量を同じようにリアルタイムPCRする必要があります。

つまり「このDNAの量が〇〇の時のCt値は◎◎」という基になるデータを取っておかなければなりません。

そして、そのデータを取った上で、量を調べたいDNAのCt値と基データを比較し逆算することで、やっと求めたいDNA量を推定できるのです。

またこのDNA量の推定値が限りなく0に近ければ、「調べたかったDNAは存在しない」という判断になるわけですね。


ちなみに上記の基データを使った推定の方法を"絶対定量"と言います。

その他にも、基になるデータが取れない場合(量が分かるDNAがない場合や、そもそもそのDNAが稀少である場合など)では、基データを必要としない"相対定量"という推定方法もあります。

実際は分野によってはこの"相対定量"の方が主流だったります。

ただこちらの説明には膨大な記載や予備知識が必要になってくるので、また機会がある際にでもじっくり書きたいと思います。



ということで、今回はDNA量を推定する"リアルタイムPCR"という方法を説明しました。

文章で書くと、理論上はスムーズにいきそうに思えますが、実際にやってみると、

・そのDNAがないはずなのにカーブが立ち上がってくる(=偽陽性)
・逆にあるはずなのにうまく出てこない(=偽陰性)

という事態が起こることもしばしばあります。


きちんと研究設計を立て、不測の事態が起きた際に「何が問題だったのか?」がしっかり対処できないと結果を正確に解釈できません。

・きちんと手順通りに行ったのか?
・PCR設定は最適なのか?
・そもそも抽出がうまく行えたのか?
・DNAの保存状態は良好だったのか?

等々...結局ここでも『単なる結果だけでなくその解釈が重要』ということですね。


昨今は科学技術も発達し機械化・AI化・オートメーション化が進んできました。

もちろん実際に手を動かす実験手技・操作といった熟練した職人技が必要な状況が完全に無くなることはないとは思います。

しかし、今後その需要は必ず今より減ってくると私は思っています。

そうなってくると、我々法医学者に今後求められてくるのは、機械に置き換えられるような作業ではなく、複雑な"解釈"や"考察"といったもっともっと深い部分だと思うんですよね。

だからこそ、こういった"方法論"をしっかりと理解しておく必要がある、、、常々そう感じます。