117F61
56歳女性。強い頭痛後に、意識障害を生じたため救急車で搬入された。
現病歴: 自宅で家事をしていたところ、突然強い頭痛を訴えた。その後まもなく反応が無くなったため、長女が救急車を要請した。2日前に頭痛で自宅近くの診療所を受診した際の検査結果を長女が持参している。
既往歴: 12歳時に急性虫垂炎で手術。2日前に頭痛があり、自宅近くの診療所で処方された鎮痛薬を内服している。
生活歴: 夫、長女および長男との4人暮らし。30年前に会社を退職した。喫煙歴はない。飲酒は機会飲酒。
家族歴: 特記すべきことはない。
現症: 意識レベルはJCSⅢ-100。身長152cm、体重56kg。体温37.2℃。心拍数56/分、整。血圧192/102mmHg。呼吸数24/分。SpO2 96%(マスク5L/分酸素投与下)。瞳孔径は両側3.0mm。対抗反射は両側で遅延している。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。頭部に外傷はない。口腔内と咽頭とに異常を認めない。頸静脈の怒張を認めない。甲状腺腫と頸部リンパ節とを触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。浮腫を認めない。腱反射に異常を認めない。
検査所見(持参したもの): 尿所見:タンパク(ー)、糖(ー)。血液所見:赤血球453万、Hb13.0g/dL、Ht39%、白血球9600(分葉核好中球52%、好酸球5%、好塩基球1%、単球5%、リンパ球36%)、血小板26万。血液生化学所見:総蛋白6.8g/dL、アルブミン3.9g/dL、総ビリルビン0.9mg/dL、直接ビリルビン0.3mg/dL,
AST30U/L、ALT26U/L、LD130U/L(基準120〜245)、尿素窒素15mg/dL、クレアチニン0.7mg/dL、血糖88mg/dL、Na138mEq/L、K4.1mEq/L、Cl100mEq/L。
入院5日目、昇圧薬を維持して投与していたが、瞳孔径が両側5.0mmとなり、対抗反射は両側で消失した。その後、血圧が低下し、心停止となり、死亡確認を行った。
その後の対応で正しいのはどれか。
a 警察に連絡する。
b 保健所に連絡する
c 司法解剖を依頼する。
d 死亡診断書を作成する。
e 医療安全支援センターに届け出る。
※本問の前の設問で、入院後に頭部単純CTを撮影して"くも膜下出血"と診断されている。
正答は【d】です。
[a] 誤り。本事例の死因は、くも膜下出血による病死と考えられるため、必ずしも異状死の届出を行う必要はないと考えられます。
[b] 誤り。問題文の情報からは、"指定感染症"や"食中毒"を診断したとは読み取れないため、保健所への連絡は不要です。
[c] 誤り。[a]の通り、本事例は必ずしも異状死として届け出る必要はないと考えられ、またそもそも司法解剖の依頼は医師が行うわけではありません。
[d] 正しい。「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病(→くも膜下出血)に関連して死亡したと認める場合」に該当するため、死亡診断書の作成で良いでしょう。
[e] 誤り。本事案は"医療安全"に関する懸念はありませんので、医療安全支援センターに相談は不要と思われます。
同年に出題されたB40の問題に通ずるものがあります。(参考問題:117B40)
出題レベルも簡単です。
もちろん"くも膜下出血"は外傷によっても起き得ますが(外傷性くも膜下出血)、一応問題文に「頭部に外傷はない。」と書いてありますので、ここはそれを素直に信じましょう。
つまり。死因は"内因性のくも膜下出血"と判断できます。
その他、「異状あり」と判断すべきポイントもありませんので、"死亡診断書の作成"でFAです。
ちなみに、選択肢[e]に見慣れない"医療安全支援センター"というキーワードがあるので補足します。
"医療安全支援センター"とは、医療法 第6条の13に規定される施設のことで、名称通り「"医療安全"に関する助言や情報提供等を行う施設」ということになります。
国試では「治療後の経過に関して主治医以外に相談を希望する場合、助言や情報提供を行う施設」とかつて出題されたこともありますね。
同センターのHPには、具体的な業務として下記の通り書かれています。
1. 患者・住民からの苦情や相談への対応(相談窓口の設置)
2. 地域の実情に応じた医療安全推進協議会の開催
3. 患者さん・住民からの相談等に適切に対応するために行う、関係する機関、団体等との連絡調整
4. 医療安全の確保に関する必要な情報の収集及び提供
5. 研修会の受講等によるセンターの職員の資質の向上
6. 医療安全の確保に関する必要な相談事例の収集、分析及び情報提供
7. 医療安全施策の普及・啓発
日本医療安全機構(医療事故調査・支援センター)のQ&Aにも下記のような記載があります。
このように、医療に関連した死亡事例を除く、医療に対する患者の苦情や相談等の対応も"医療安全支援センター"の大きな業務一つであることは知っておいてよいかも知れません。
冒頭に書いたように、今回の問題は同年に出題された問題とやや考えの傾向が似ていて、
「第117回は法医学系問題がたった3問しか出題されていないのに勿体ないな...」
と個人的には思いました。
次回はいろんなバラエティのある問題が出てほしいものですね!