今回は個人識別のために行われる"スーパーインポーズ"と"復顔法"について書いていきます。
"個人識別"(≒身元特定)とは、『身元がわからないご遺体が誰なのか?特定していくこと』です。
身元不明の白骨や高度に腐敗したご遺体、場合によっては「所持品を何も持っておらず身元を特定できる全く情報がないご遺体」も対象になってきます。
個人識別の方法にはいろいろあります。
・見た目
・歯並び
・DNA(+血液型)
・指紋
・画像比較(スーパーインポーズ法)
...
これらの方法を駆使して、そのご遺体がどこの誰なのか?を特定していくわけですね。
この中でも、馴染みのない"スーパーインポーズ法"について解説していきます。
これは主に白骨・頭蓋骨に対して適用される方法です。
スーパーインポーズ法:"生前の写真"と"同じ方向の頭蓋骨"を重ね合わせることで比較し、一致率を以て個人を確定する手法。
輪郭はもちろん、鼻や口、耳、眉などの特定のポイントが一致することを確認します。
教科書的には"生前の2次元画像(写真)"と"頭蓋骨を同じ向きから撮った写真"を重ね合わせて比較していることが多いです。
比較するためには頭蓋骨を写真と"同じ向き"にして撮影しなければなりません。
角度が違うと比較する点もズレてしまいますからね。
生前の写真は写角とサイズが決まっているので、頭蓋骨を動かして良い塩梅で写真を撮る必要があるということです。
なかなか骨が折れる作業ですね。
実際には、大きな矛盾点があれば別人と判断し、同一人物とするには慎重に扱います。
つまり別人というのは比較的言いやすいですが、同じ人と言うには容易でないということです。
『1枚の正面写真であれば誤診率9%』
『正面・側面写真の合計2枚であれば誤診率0.6%』
という報告もあるようですね。
写真ではなく、生前のレントゲン写真と白骨頭蓋骨のレントゲン写真を比較することもあります。
こちらの場合は、眉等の表面構造はなくなってしまっているので、別の基準点を比較します。
具体的には"副鼻腔"や"頭蓋内の骨の起伏"などです。
これらは個人差が大きいので個人特定に有用です。
さらに最近はCTが出てきました。
つまりリアルな頭蓋骨を動かして撮るのではなく、CTで撮った頭蓋骨画像を、生前の2D写真と比較するということですね。
CTの画像はコロコロと向きや大きさを自由自在に変更できるので、生前の写真に合うように微調整もしやすいです。
今後はきっとこういった3D画像がメインになっていくんでしょうね。
続いて関連して"復顔法"の説明に移ります。
復顔法:白骨頭蓋骨に対して、(統計学的に得られた)一般的な肉厚の筋肉や皮下脂肪を模した粘土等を貼り付けて肉付けすることで元の顔貌を再現させんとする手法。
顔面には骨の上に筋肉や脂肪が乗っています。
頭蓋骨のある特定のポイントの上にどれくらいの厚さの筋・脂肪が乗っているか?という統計データがありますので、それに従って肉付けしていくんですね。
そうやって復顔した顔貌を以て個人の特定を進めていきます。
こちらも近年のCTの発達に伴い、骨の上にどれくらいの厚さの筋・脂肪が乗っているか?という統計データ自体の論文はは続々と出てきています。
ただ実際はなかなかうまく再現されないんですよね...。
『実際の身元判定率は5%以下』という報告もあるそうです。
いくら「統計的に標準な厚さを肉付けする」といっても、やはりどこか違った印象を受ける"のっぺりした顔貌"になってしまいますし、もし本来顔に特徴的な傷があったりしても、復顔法ではそれが再現されませんからね。(ルフィを復顔すると傷が無くなる...)
やはり微妙な厚さの個人差の影響は大きいんでしょうね。
また眉毛や口唇の厚さなどはその人の印象に大きく関わってきますが、それも白骨からは正確に再現できないのは厳しいところだと個人的には思っています。
実務でも他に手がない時の(ダメ元)最終手段という位置づけみたいです...。
逆にヒトの顔認識ってすごいなと感じます。
身元特定の方法としては様々ありますが、今回はその中でも"スーパーインポーズ法"と"復顔法"について取り上げました。
ただ実際はやはり肉眼的に確認が難しければ、法歯学(歯の治療痕)やDNA鑑定による身元特定がポピュラーかと思います。
やはり体系化された法歯学やDNA鑑定と比べると、ニッチで専門性が高すぎるからですかね。
しかし、こういった技術もケースによっては決め手になることもあるわけですし、CTの発展とともに研究が進んでいくといいですね。