前回に引き続き"創傷"について、医師国家試験の問題をみていきます。
今回は創部位の名称をメインにみていき、前回の創傷の種類ではどうなっているのか?を確認したいと思います。
今回の問題は【第96回 医師国家試験 G問題63番】です。
頭部に以下の性状を有する3cmの創傷が認められた.
創縁:不整で表皮剥脱を伴う.
創端 <創角>:両端ともに鈍的である.
創璧:不整で毛根を露出している.
創洞:両創壁を結んで架橋状に組織が残っている.
創底:骨膜に達し頭蓋骨骨折を伴わない.
この創傷はどれか.
a. 切創
b. 刺創
c. 割創
d. 挫創
e. 裂創
※画像はありません。
【正答:D.挫創】です
それでは解説していきましょう。
まずそもそも問題文に出てくる各名称が何か?を確認します。
この画像の通りですね。
『創縁』:キズのヘリ・フチのこと
この部分がスパッと綺麗か?グチャッと不整か?というのが重要です。
前者は鋭器損傷(鋭利なもので出来たキズ)、後者は鈍器損傷(鋭利でないものによるキズ)と一般的に判断できます。
問題文中では『不整で表皮剥脱を伴う』という後者ですので、おそらく"鈍器損傷"であろうとなります。
※表皮剥脱とは「擦れたことによる皮膚の毛羽立ち」と思ってください。
『創端』:キズの端っこ部分のこと。創口ともいう。
ここのポイントは、この端が尖っているか?鈍っているか?という点です。
鋭利な刃の部分で出来た創端では、前者のように鋭く尖ったものになります。
前述の画像では、創端は鋭角ですので、刃の部分で出来たキズだと判断できます。
問題文では『鈍的』となっていますので、これは鋭い刃をもつものによって出来たわけではなさそうです。
『創璧』:キズ内部の壁、露出した部分(空気が触れる部分)のこと。創面ともいう。
こちらも創縁と同様で、スパッと滑らかであれば鋭器による損傷、ザラッとして汚ければ鈍器による損傷が強く疑われます。
問題文は『不整で毛根が露出』ということなので、やはり"鈍器損傷"が怪しいですね。
『創洞』:キズの内部の空間のこと。創管ともいう。
問題には『架橋状に組織が残っている』と記載されています。
これは前回の"裂創"書いたような"組織架橋"のことです。(参考記事:創傷1)
これがあるということですので、鋭い刃によるキズではなく"鈍器損傷"によるものだと強く確信できます。
『創底』:キズの最も深い部分のこと。
問題文には『骨膜に達し頭蓋骨骨折を伴わない』と書かれていますが、これはどういう意味合いがあるのでしょうか。
結論から言えば、この問題を解答するに当たってはあまり意味のある情報ではないかも知れません。
この創底は、刺創などを診る際に「皮膚からの創底までの距離を測定することで、その刺した凶器をの長さを推定する」という意味で大切です。
また一般的に鋭器損傷、特に刺創で深くなる傾向があり、逆に挫創や裂創では比較的浅いことが多いとされます。(※この問題の答えは"挫創"なので、骨膜に達するほど強い力がかかったことが予想されます)
問題に出てくる「骨膜(骨の表面にある膜)や頭蓋骨骨折云々」というのは、これらがある鋭いキズを見た場合は、切創だけでなく割創の要素も含んでいる可能性を示唆するポイントとして重要なんです。
以上から、この問題の正答は間違いなく【D.挫創】となりますね。
駄目押しの情報がたくさんありますから、この問題は正答率が高かったのだと思います。(とは言え、問題自体は簡単ですが、割と専門的な内容が出題されていて個人的にはびっくりしました...)
ちなみにせっかく画像に入れたので"創口"と"創縁角"についても簡単に書いておきます。
創口:上から見た時の皮膚面に開いたキズ口のこと。
創縁角:皮膚と創壁・創面で出来る角度のこと。
これらも含めキズをよく観察することで、『どんな凶器によってどのような方向から打撃されたか?』というのが実は分かったりするんです。
詳しくは長くなってしまうのでまた次回に詳しく書きますのでそちらをみてください。
紛らわしい言葉も多いですが、法医学的にはどれも重要な観察ポイントなんですよね。
キズの数が多いご遺体であっても、それらのキズひとつひとつに対してきちんと丁寧に観察し記録していきます。
そんな骨が折れる解剖もしばしばありますが、法医学者は日々頑張っています。