今回は"ベックウィズ徴候"[Beckwith's sign]を取り上げます。
この所見は"乳幼児突然死症候群"(SIDS:Sudden Infant Death Syndrome)で認められ得る所見とされます。
SIDSは原因不明の乳(幼)児の突然死です。(参考記事:「乳幼児突然死症候群(SIDS)」)
SIDSの診断には解剖が必須であり、『解剖を経ても何も死因が認められなかった』という所見が必ず必要とされます。
そのようなある意味で解剖所見でも特徴の無いSIDSで認められることがある所見のひとつのがこの"ベックウィズ徴候"です。
【ベックウィズ徴候】[Beckwith's sign]:SIDSで認め得るとされる、胸腺の点状出血こと。「胸腺上部背面に点状出血には少ない」という"不均一性"もしばしば指摘される。
アメリカの病理学者であるジョン・ブルース・ベックウィズ先生によって報告されました。
詳しくみていきましょう。
【ベックウィズ徴候】
この"ベックウィズ徴候"というのは胸腺に認められる点状出血です。
胸腺とは、主に若年で認められる臓器で、年齢を経るにつれ脂肪化してしまいます。
乳児にはしっかりと存在しています。(※ちなみに虐待児ではストレスから胸腺が縮んでしまうとも言われます)
SIDSの乳児では、この胸腺に1-5mm程度の多発する点状出血が認められることが多いです。
その頻度としては約70-90%と結構高いです。
ただし、何度も言うように『これがあるから死因は"SIDS"の可能性が高い』という話ではないことは十分注意が必要です。
SIDSの際に胸腺に点状出血が出来る機序ははっきりしていないようですが、
「胸腺の点状出血は、死戦期呼吸時による胸腔内の陰圧によって生じる」
という説が唱えられています。
また経験的に「背面を中心とした胸腺上部では点状出血が少ない傾向にある」とも言われています。
これに関しては、
「走行する静脈の関係で、胸腺上部ではこの陰圧が軽減されるために点状出血が少なくなる」
とするという説明もしばしばなされます。
ということで、今回のテーマは"ベックウィズ徴候"でした。
話の順序は逆になりますが、SIDS児でこの"ベックウィズ徴候"が多く認められていることから、『SIDSでは(胸腔内が陰圧となる)窒息が関係している』という指摘もされているようです。
それも当然仮説の域を出ないわけですが。
はっきりしたことが分からないからこそ、いろんな死因不明な病態に対してゴミ箱診断的にSIDSという病名が付いてしまい、なかなか系統立った研究が難しいところはあるのかも知れません。
何にしても、そもそも原因不明のSIDSにまつわる所見であるため、この"ベックウィズ徴候"に関しても分かっていない点ばかりです。
今現在も世界中で多くの小児科医や法医学者などがSIDSについて研究を進めています。
一歩ずつでもSIDSの解決に近づけることを願うばかりです。