法医学者には死亡推定時刻が何時何分かまでは分からない?

よくご遺族から確認される項目に「いつ亡くなったのか?」というのがあります。

死亡時刻は死体検案書にも記載しなければならず、法医学上も大変重要な事項です。

ですが、実際に検案・解剖結果のみから死亡時刻が「○時●分」レベルまで特定することは極めて難しいのが現実です。



場合にもよりますが、検案・解剖結果のみの情報なら、現実的に"死亡時刻の正確性"はせいぜい

『時間単位の推定』
『前後数時間のズレはあり得る』

が精一杯なところではないでしょうか。


ただし、実際は目撃情報やその他の生活情報等から時間が絞られることが多いです。

なので、それらの情報も考慮しつつ推定しています。


詳しくみていきましょう。



もしあるご遺体が発見されれば、その発見時刻や検視・検案時刻、そして検案・解剖結果から死亡時刻を推定していきます。

具体的な死亡時刻の推定に関する所見についてはまた別記事で改めて取り上げますが、

・体温
・死後硬直 (参考記事:「死後硬直」)
・死斑
・角膜混濁
・胃内容

等から推定されます。


教科書を見れば分かりますが、上記項目では「数時間の幅」で書かれているものが殆どです。

しかもその数字についても、各教科書によって微妙に違っています。

つまり前後数時間のズレは全然あり得るというわけです。


上記5つは比較的新しいご遺体に適応されます。

もう少し時間が経って来ると、"蛆の大きさ""腐敗・白骨の程度"などが死亡時刻の推定に使用されますが、これに至っては数日~数ヶ月の幅です。


以上のように、ドラマのような『何時何分』までの死亡時刻の特定が実際は夢物語であることが分かります。



では、我々が書く死体検案書や「何時何分」まで特定された死亡時刻が全く出てこないのか?と言われるとそうでもありません。

警察から提供される"生活情報"によって、ある程度詳しい時間を特定し得ます。


具体的には、

・目撃情報
・防犯カメラ映像

・レシート
・新聞や配達物
・日記やカレンダー
・電話やメールの履歴

こういった情報から死亡時刻を考えます。


「○時●分」レベルまで特定しようと思うと後者5つの情報では厳しいかも知れませんね。

これらはせいぜい「◎日」という死亡日くらいまでしか特定できませんから。



『(こういった)警察からの情報と、(前述の)検案・解剖による情報が矛盾しないか?』

『もし矛盾するなら説明可能な矛盾か?』

というのを我々法医学者は常に確認し考えています。



ということで、ドラマのように

『○時●分頃に亡くなったと思われます』

と言えることは滅多にありません。

もしあったとすれば、それは法医学者おかげではなく「警察の捜査のおかげである」と言えそうです...。


「死亡時刻の推定」に関する研究は法医学でも主要な研究テーマで、現在も全世界でその研究が進められています。

まだまだ実用的なものは出てきてませんが、先進的な研究結果は色々と出てきています。

今後もっと研究が進んでいけば、もしかしたら死亡時刻が『○時●分』まで特定できる世の中が来るのも知れませんね。