外に出た血はどれくらいの時間で固まるのか?

「出血した血液はどれくらい経てば固まるのか?」

今回はこれについて考えてみたいと思います。


ドラマでも血液の固まり(乾燥)具合から、時間経過を判断するワンシーンがあると思います。

あれですね。


ただ、この知識自体は現場に赴かない法医学者にとってはあまり馴染みのない話です。

むしろ検視官や鑑識の方の方が詳しいとは思います。


ですので、「血液の乾燥」に併せて「血液の凝固」についても触れていきたいと思います。

こちらは解剖を行う法医学者にも多少関わることです。



さて、結論から言うと、

「血液が乾燥する時間は、血液量の他、室温・湿度、風通しなどの環境に大きく左右されるため一概に言えない」

となります。

"凝固"に関しては、凝固能が保たれていれば「血液は数秒ないし数分~十数分で凝固する」と言えます。


順に詳しくみていきましょう。



【血液の乾燥】


これは前述のように実際現場で観察される事項かと思います。

ただこれには外的影響を大いに受けます。

「血液量」:多いほど乾燥しにくい。
「室温」:高いほど乾燥しやすい。
「湿度」:高いほど乾燥しにくい。
「風通し」:良いほど乾燥しやすい。


以上から、『血液は体外へ流れ出て○○時間で乾燥します!』とは言えないわけです。

当然ドライヤーなんかを使えばすぐに乾くわけですし。


ちなみに臨床医学で"乾燥血液"と言えば、「新生児マススクリーニングにおける"ろ紙血"」が有名です。

この"新生児マススクリーニング"とは、「生後数日の赤ちゃんから採取した血液を分析することで、複数の代謝性疾患を一度に診断する方法」のことです。

この検査の際に、血液を染み込ませたろ紙を分析します。

この染み込ませたろ紙を乾燥させる時間がだいたい『室温で数時間(2~5時間以上)』と言われます。

つまりここから逆に考えると、「血液の乾燥にはやはり最低でも数時間は必要」かと思われます。

ちなみにろ紙に染み込ませる血液は1スポットたったの50μLだそうなので、これは極めて少量です。

そう思うと、もっと大量出血の場合は乾燥にはもっともっと時間がかかると言えるでしょう。



【血液の凝固】


血液は止血のために固まる作用を持ちます。

その性質は体外に出ることで活性化され、それが止血に繋がるわけです。


この現状は臨床医学でもしばしば遭遇します。

「採血後の血液を確認すると、黒スピッツ内で血液が凝固してしまっていた」

これは、きちんと転倒混和してスピッツ内の血液を抗凝固剤としっかり混ぜなかったために起きる現象です。

これより、「血液凝固は体外に出てものの数十秒~数分で起こる」ことが分かります。


また法医学でも『凍死における"血液凝固性の保持"』としてよく経験されます。(参考記事:「凍死」)

これは「凍死したご遺体から血液を採取し、室温で放置していると凝固が起きる」というものです。

通常のご遺体の血液ではこのような現象は起きないのですが、凍死ではこの"血液凝固能"が維持されているためと言われています。

この場合の凝固開始時間としては、およそ数分~十数分といったところでしょうか。


従って、これらから「体外に出た血液の凝固は数秒ないし数分~十数分に起こる」と言えます。



以上より、結論としては、

『血液を見ただけでは出血時間なんて大して分からない』

と思います。

「完全に乾燥しているので数日以上経ってます!」くらいのことは小学生でも見て分かるとは思いますが、さすがに時間単位で話すのは不可能でしょうね。


ということで、"血液の乾燥"に関しては、

「数分前に殺されているはずなのに多量の血液が完全に乾燥している」

なんていうドラマの中でしか使えませんね。

そして、それは法医学者でなくても誰だって考えれば分かることなので、格好がつくシーンではないのかも知れません。