交通外傷6 -乗員編- [ダッシュボード損傷、サブマリン現象]

交通外傷の乗員編もいよいよ最後です。

交通外傷4:ハンドル損傷、ペダル損傷
交通外傷5:シートベルト損傷、エアバッグ損傷、鞭打ち損傷


今回は"ダッシュボード損傷・サブマリン現象"です。

特に前者は『助手席で多い』とされ、しばしば乗員の位置の推定にも使用されますが、あまりはっきりしないことも多い印象があります。



【ダッシュボード損傷】:ダッシュボードにぶつかることで起きる損傷。膝や太ももに出来ることが多い。打撲による同部位の骨折の他、大腿骨の突き上げによる骨盤の介達骨折が認められることもある。

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【サブマリン現象】:衝突時にシートベルトの下から身体がすり抜けてしまう現象。この現象によってダッシュボード損傷やハンドル損傷がより重大となる。シートベルトが緩んでいたり、リクライニングシートを倒している状態で衝突した場合に起こりやすく、小児などの小柄な乗員では特に注意が必要となる。

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詳しくみていきましょう。



【ダッシュボード損傷】


これは文字通りダッシュボードで打撲することによって起こる損傷です。

運転席にはハンドルやコンソールがあるため、主に「助手席で認められやすい」とされますが、しばしば運転手にも認められることがあり絶対的ではありません。

衝突の際に膝が曲がり、その膝部や大腿部が天井のダッシュボードにぶつかります。


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また下の画像のように、衝突の際に踏ん張ることで、その踏ん張り力が大腿骨の長軸方向に突き上げる力となり、大腿骨の付け根である骨盤骨にめり込むように骨折を来すこともあります。


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このように、直接打撲していない部位の骨折のことを"介達骨折"と呼びます。

この現象は、高所から転落時、足から着地した際にも同様の原理で骨盤骨折が起こります。



【サブマリン現象】


これは"サブマリン"、つまり潜水艦のように(シートベルトの下に)"潜り込んでしまう"ことを言います。

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このように、腰部分のシートベルトの下へ滑り込んでしまう形ですり抜けてしまう現象です。

これが起きると、シートベルトによる固定がなくなってしまうため、運転席における"ハンドル損傷"や前述の"ダッシュボード損傷"がより重篤になってしまいます。


この"サブマリン現象"は、幼児・小児などの小柄な乗員が適切にチャイルドシートやシートベルトを着用できていない場合に起こりやすいです。

またリクライニングシートを倒しすぎると同じくずり落ちやすくなります。

これを防ぐためにも、チャイルドシートやシートベルトは適切に設置ししっかりと締める必要があります。



以上、2種類の損傷・現象でした。


今回まで挙げてきた乗員における損傷以外にも、歩行者編で触れた"フロントガラス損傷"などは乗員でも重要な外傷です。(参考記事:「フロントガラス損傷」)

歩行者の時と同様に"雀の足跡状"の細かな切創が多数出来ます。


歩行者の時とは違い、乗員では車内にある構造物(ハンドルやダッシュボードなど)による損傷が特徴と言えます。

法医学者はこういった所見を細かく観察しながら、時には事故の状況を推定しつつ、全容解明に努めているわけですね。



ということで、今回で"自動車の乗員における交通外傷"も一段落です。

『シートベルト着用がいかに重要か?』ということも理解できたと思います。

また、オートバイではそのような衝撃吸収装置が全くないわけですから、事故が起きると重大であることは想像に難しくないと思います。


皆さんも運転の際はもちろん、歩行時にも周りに最大限の注意を払ってくださいね。