法医解剖と病理解剖の違い

"解剖"にはいくつかの種類があります。

大きな括りをすると以下の3つです。

・法医解剖
・病理解剖
・系統解剖

このうち最後の"系統解剖"は「医学教育のための解剖」ということで分かりやすいでしょう。

そこで今回は残りの2者"法医解剖と病理解剖"の違いに注目して書いていきたいと思います。



法医解剖:法医学分野で行う解剖。司法解剖、行政解剖、承諾解剖、(死因身元)調査法解剖の4種類の解剖。

病理解剖:病院の病理部門にて行われる解剖。病因や病状の確認と治療効果の評価などのために行う。

日本法医学会HPより


個別の詳しい記載は関連記事をご覧ください。

参考記事:司法解剖・調査法解剖行政解剖・承諾解剖
参考記事:病理解剖



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どちらも「ご遺体の病気を調べる」という点は似ています。

ただ両者を比べると、

法医解剖:死因究明に重きを置く
病理解剖:病態解明に重きを置く

という点に違いがある気が個人的にしています。

それ以外にも↑まとめ表のような違いがあります。


詳しくみていきましょう。



『法医解剖』


"法医解剖"では特に"死因究明"に重きを置いている印象があります。

裏を返せば、死因に直接結びつかない軽微な疾患に関しては、もしかすると後述の病理解剖の方が詳細に検索され得るのかも知れません。

これは法医解剖で扱うご遺体の特徴が、

「バックグラウンドが不明であり、全くの暗闇からのスタートが多い」

という状況が影響している気もします。


また例外的に、法医解剖では軽微なものであっても"外傷"に関しては特に細かな検索が行われます。

これは、法医学はやはり警察機関との結び付きが強く、犯罪捜査の観点から必要性が高いからです。

病理解剖と比べても『外見の観察を詳しく行う』というのは法医解剖の大きな特徴と言えます。



『病理解剖』


"病理解剖"も「病気を調べる」という点は法医解剖と変わりません。

ただし前述の"スタートライン"が違います。

病理解剖で扱うご遺体の殆どは当該病院に入院しており、死亡までの経過が分かっていることが多いです。

この点は暗闇から始まる法医解剖とは大きく違います。

そのため「その臨床経過から"死因"については解剖前からある程度分かっていることも多い」と聞きます。

だからこそ、"死因究明"から一歩先に進んで、"病因や病状の確認"や"治療効果の評価"といった臨床経過との対比が行われるのだと私は思っています。


もちろん"医療事故"が絡むようなケースでは、その死因が臨床経過からははっきりしなかったり、ある程度分かっていても"死因"を明確にする必要があるため、"死因究明"が最優先事項となることもあるでしょう。

また医療事故事案では、高度な臨床医学の知識が求められることから臨床医の協力は必要不可欠です。

「医療事故は法医学者だけでは絶対に対応しきれない」と私は思っています。

従って、そういう意味でも『より臨床に近い(臨床医に協力を要請しやすい)病理解剖の方が医療事故調査に適している』という考え方もできます。

ただし前述のように、法医学も外見の所見を取るのに長けていたり、死因究明という点には慣れています。

なので、決して医療事故調査に法医学者が不要なわけではありません。

やはり臨床医・病理医・法医学医の3者の協力がなくてはならないわけですね。



ということで、最後は少し話が逸れてしまいましたが、法医解剖と病理解剖には違いがあります。

しかし、そういった違いがあるからこそ、互いに補い合いながら世の中に"解剖調査"を提供しているのだと思います。

そして、必要な時には協力し合って解剖調査の精度を上げるのです。