いわゆる癌(悪性腫瘍)が死因統計で1位であることは今では誰しも知っているかと思います。
それではこれは知っているでしょうか。
『何故癌で死ぬのか?』
『癌がどうなることで死に至るのか?』
これについて知らない人はきっと多いと思います。
今回は『癌が何故死を引き起こすのか?』について書いていきたいと思います。
※ちなみにこの記事内では「癌=がん=悪性腫瘍」として書いていますのでご了承ください。
癌による身体への主な致死的影響は以下の通りです。
・腫瘍の破裂による出血
・癌性胸水による呼吸不全
・腫瘍による肺塞栓
・腫瘍による腸閉塞
・癌による衰弱(低栄養や脱水)
詳しくみていきましょう。
【腫瘍破裂による出血】
これは肝臓癌などで多い印象です。
癌は増殖していくめにたくさんの栄養を必要とします。
そのため、自ら多くの血管を作り出し、血流が豊富なものが多いです。
それでいて、癌の血管は正規ではなく手前味噌な血管ためとても脆いんですね。
癌が次第に大きくなっていくと、ついにその血管が千切れてしまい失血死してしまうのです。
【癌性胸水による呼吸不全】
これはやはり肺癌で多いです。
癌の影響で肺表面の胸膜に炎症が起き、その炎症が胸水を増加させてしまいます。
そうなると肺が水浸し状態になるため、ガス交換の効率が下がり、呼吸不全となります。
少し機序は違いますが、後述の低栄養や心不全・肝不全でも胸水の貯留は起きます。
【腫瘍肺塞栓】
血中に飛び散った癌が肺の血管を詰めてしまうことで起きます。
胃癌や肝癌に多いとされます。
血栓性の肺塞栓と同じように、死に至る可能性のある病態です。
【腫瘍による腸閉塞】
大腸癌などが大きくなってしまうことで、便が通過障害を起こし亡くなってしまいます。
直接的な死因は、腸炎やそれに伴う破裂、腸粘膜バリアの破綻などが挙げられます。
【衰弱(低栄養や脱水)】
これが最もイメージしやすいかも知れませんね。
癌細胞は身体の代謝を狂わす物質を分泌するため、脂肪や筋肉が減ってしまいます。
そして、癌自身も多くの栄養を必要とするため、カロリーが余分に消費され、身体は痩せてきます。
それが進行すると、食事を食べることもできなくなってしまい、負のスパイラルに入ってしまいます。
最終的には低栄養や脱水といった状態が死に繋がります。
以上、主な「癌による死の病態」でした。
臨床ではしばしば1番下の病態が"悪液質"として呼ばれますね。
そして、時に「この悪液質が死に繋がった」と説明されるようですが、我々がご遺体を拝見すると『全く痩せていない』なんてこともあります。
そこで解剖させてもらうと、悪液質以外の病態であったり、むしろ"虚血性心疾患"による死亡だったことも私自身経験したことがあります。
臨床医学的には、そんな他の病態や虚血性心疾患も含めて『癌による死亡(→死因:○○癌)』で問題ないのかも知れませんね。
しかし、死を専門とする私にとっては「もう少し踏み込みたい」と思うのは法医学者のサガなのかなと思ったりします。
ただ、こういった"認識の違い"は死因統計の不正確性に繋がるとも思います。(参考記事:「死因統計の問題点」)
本当は"心臓死"(2位)なのに"癌による死亡"(1位)となったら、全然意味合いが違いますからね。
死亡診断を厳密にすれば、死因統計の順位も変わるかも知れません。