今回は「環境による腐敗スピードの違い」を取り上げます。
法医学でも有名な"キャスパーの法則"です。
ドラマや小説にも時々出てきますよね。
一見単純ですが、実は多くの注意点があります。
今回はそういった点も含めて"キャスパーの法則"をみていきたいと思います。
【キャスパーの法則 [Casper's law, Casper's dictum]】:「遺体の腐敗状況において、平均気温が同じ場合、『地上の1週間(or 1ヶ月)・水中の2週間(or 2ヶ月)・地中の8週間(or 8ヶ月)』が同程度である」という法則。
ここから「地上の腐敗速度を1とした時に、水中では1/2、地中では1/8になる」と説明されることもあります。
詳しくみていきます。
以前に"キャスパー徴候 (Casper's sign)"を取り上げました。(参考記事:「キャスパー徴候」)
両者は全く違いますが、実は今回の"キャスパーの法則"も同じ"キャスパー先生"の名にちなんでいます。
1860年にドイツの"ヨハン・ルートヴィヒ・キャスパー先生"が提唱しました。
何と100年以上も使われ続けているんですよ。
「『地上の1ヶ月・水中の2ヶ月・地中の8ヶ月』における腐敗状況は同程度である」
すごく単純明快な法則ですよね。
本来この法則は、キャスパー先生がご自身の経験から見いだした"経験則"でした。
ただ現実的には、腐敗に影響する因子というのは数多くあります。(参考記事:「腐敗」)
"平均気温が同じ場合"という条件はキャスパー先生も挙げておられますが、他にも...
・環境温度
・湿度
・(遺体の)水分量
・着衣状況
・体型
・外気との接触具合
ザッと挙げただけでもこれくらいあります。
キャスパー先生も「(こういった)条件に注意を払ってエラーを避けること」と、きちんと忠告しています。
"地中"に関しては特に注意が必要です。
キャスパー先生が書いた本を読むと、この"地中"に関しては、
【eight months buried in a coffin in the usual manner.】
と書いてあるのです。
訳すと「通常の方法で棺の中に8ヶ月埋葬」ですよね。
つまり、キャスパー先生は欧米の方なので、"地中の埋葬"は"棺による埋葬"を指しているのです。
そうなると、我々日本人がイメージする「ご遺体をそのまま土中に埋める」という埋葬とは、意味合いが大分違っている気が私はしています。
その他にも、もし"土中"に埋めるなら、その土壌の環境、例えば、
「乾燥度はどれくらいの土なのか?」
「pHはどれくらいの土なのか?」
「どのくらいの深さに埋めたのか?」
こういった条件も大いに腐敗スピードに影響してきます。
そんなことを言い出すと「『地中の腐敗は、空気中の1/8のスピードで進行する』と断言して良いものか?」と個人的には不安になります...。
実際に「キャスパーの法則は、腐敗速度を過大評価している(=地中ではもっと早いスピードで腐敗する)」という意見もあります。
そういったことを考えると、具体的な数字に惑わされるのではなく、
「水中や地中では、地上よりも遅く腐敗が進んでいく」
という、あくまでもざっくりとした"目安"として考えるのが良いのかも知れませんね。
今回は"キャスパーの法則"についてみてきました。
冒頭にあるように、"キャスパーの法則"に関しては、100年以上も前の法則が未だ現代でも使われています。
これは「単純かつ理解しやすいから」であると同時に、「(現代でおいても)それに代わる良いツールが無いから」だとも私は思っています。
"腐敗スピード"という色々な因子の影響を受ける現象を、単純な式で表すこと自体がそもそも不可能なことではないか?と...。
皆さんはどう感じますか。