第90回医師国家試験 A問題 問15 [90A15]

90A15
医師免許のほかに法的資格が必要なのはどれか.2つ選べ.

a 正常妊娠の人工妊娠中絶
b 異状死と思われる死体の検案
c 新生物の放射線治療
d 遺伝子操作治療
e 本人が同意しない精神障害者の入院の判定




正答は【a, e】です。


[a] 正しい(=医師免許以外に法的資格が必要)。人工妊娠中絶に関しては、母体保護法 第14条で「都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。」と規定されており、母胎保護法による人工妊娠中絶を行うには、医師免許に加え、都道府県医師会が審査・指名する"指定医師"に指定されていることが法律によって決められています。

[b] 誤り(=医師免許以外に法的資格は不要)。異状死体の届け出は、(検案を行った)医師全員に義務があります。従って、医師免許以外に届け出に必要な資格はありません。

[c] 誤り(=医師免許以外に法的資格は不要)。実務の上では、悪性腫瘍の放射線療法には専門的知識が必須ではありますが、それが法律ベースで規定されているわけではありません。

[d] 誤り(=医師免許以外に法的資格は不要)。[c]同様、いわゆる遺伝子治療にも当然に専門的知識が必須となりますが、それが法的資格という形で定められているわけではありません。

[e] 正しい(=医師免許以外に法的資格が必要)。精神疾患患者における"非自発入院"等の判定には、判定医が"精神保健指定医"であることが法律に定められています。精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 第18条「厚生労働大臣は、その申請に基づき、次に該当する医師のうち第十九条の四に規定する職務を行うのに必要な知識及び技能を有すると認められる者を、精神保健指定医に指定する。」



医師免許以外の医師の法的資格に関する問題です。

問題で出てきたのは、「母体保護法指定医師」と「精神保健指定医」でした。

医師の中でも、前者は"人工妊娠中絶"を、後者は"非自発入院の判定"を独占的に行えます。


精神保健指定医の職務には、

・医療保護入院、応急入院の判定
・身体拘束などの一定の行動制限の要否判定
・措置入院解除の判定

などの臨床医としての独占業務の他にも、

公務員として、

・精神科病院への立入調査
・精神障害者手帳の返還に関連した診察

といった業務も法律によって定められています。


精神科診療に関しては、その業務の特殊性から、社会的にもより人権に配慮した診療が求められていることの現れでしょう。

人工妊娠中絶も社会的重大性という点では同じ意味と考えられますね。


この2者の他、医師免許に加えた法的資格として"死体解剖資格"があります。

この"死体解剖資格"は、本来なら死体損壊であることから社会的に認められない"死体の解剖"を独占的・限定的に行うことが認められた資格です。(参考記事:死体解剖資格)

こちらもきちんと死体解剖保存法 第2条第1項で定められています。


・母体保護法指定医師
・精神保健指定医
・死体解剖資格

この3つはしっかり押さえておきましょう。



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