近年、警察医の先生方が中心になって行われている警察医業務(検案等)の費用についていろいろと議論されるようになりました。
いわゆる「検案料問題」です。
これは簡単に言うと、
①遺族負担である (保険適用外)
②地域によって検案料ないし検案書発行料が違う
この2点が主な問題になってきます。
みていきましょう。
日本においては、病院以外で亡くなった場合でも、原則として必ず1度は医師の診察もしくは検案を受けなければなりません。
そしてその後に医師が発行した死亡診断書・死体検案書をもってご遺体の火葬が可能となります。(参考記事:「死亡診断書・死体検案書」)
この際に活躍する医師が"警察医"の医師でした。(参考記事:「警察医」)
警察医の先生方の多くは普段臨床医として診療に当たっており、警察の要請で検案をするために出向きます。
これは責任のある業務ですので、検案を行った警察医の先生には謝礼が支払われています。
ただし、この報酬自体は当然要請をする警察側から月額で支払われるのですが、ほんの微々たるものであり、到底労働の対価に見合う額ではありません。
実際は"検案料"ないし"検案書発行料"として、遺族から費用を受け取っていることが殆どです。
ここで冒頭に挙げた2つの問題が浮かび上がってきます。
①検案料・検案書発行料が遺族負担であること。
先ほど書いたように、病院で診療中の疾患で亡くなった場合を除いて、基本的に"検案"が行われなければなりません。
「この検案は何のためか?」というと、『犯罪捜査の端緒となるため』だと私は認識しています。
ですので、本来は警察つまり国が支払うべきだと思うのですが、現実は遺族が負担しています。
しかも、保険適用はされませんので、提示額をそのまま遺族が支払うことになります。
この構図は違和感があります。
後述しますが、これが監察医制度が導入された地域になると、支払額の一部を行政が負担していたりします。
②地域によって検案料・検案書発行料が違っている
この問題も深刻です。
全国的にこの検案料・検案書発行料の金額は定まっていません。
つまり同じ検案ようにを受けても、警察医(ないし地域)によって遺族が支払う金額が違うんです。
ある医師会のアンケートをみますと、上は5万円を超えるものから、警察医の先生によっては一切遺族からお金を受け取っていない方もいらっしゃるようです。
最も多い回答は「2-3万円」でした。
お金を受け取らない警察医の中には、「悲しみに暮れる遺族を目の前に"お金を払ってください"なんて言えない」という意見もあるそうです。
警察医のまとめ役である医師会が統一すれば良いじゃないか?と思ったりもしますが、どうやら医師会が統一するのは独占禁止法に違反する恐れがあるそうですね...。
先ほど触れたように、監察医制度が導入されている地域ではこちらも行政の一部負担のため額が違ってきます。(参考記事:「行政解剖の同意・承諾」)
東京都では0円、大阪市で11700円、神戸市で20000円です。
こういった地域による差も問題ですよね。
これを警察医側からの視点で見ると、また意味合いが違ってきます。
臨床が忙しい中で、場合によってはその診療を中断してまで検案に赴いたもものの、もし報酬がなければ...。
見方によっては"警察医の素晴らしいボランティア精神"に見えるかも知れませんが、数少ない警察医の自己犠牲とも言えます。
決して、その状態は喜ばれるものでもありません。
そういった問題もあり、目安となる一例も示されております。
東京都の一例も挙げます。
画像からも読み取れますが、平日・休日、祝日、お盆、年末年始関係なく、ご遺体があれば検案要請があり、警察医は現場に駆けつけるわけです。
重大なことだからこそ、それにまつわる事項に関しても曖昧でなく、きちんと定められているべきだと私は思いますね。
実は、今回は別に問題提起したいからこのテーマを取り上げた訳ではありません。
忙しい中、検案に行ったにも関わらず、遺族から「身内が亡くなったばかりなのにお金の話をするのか!」と言われ傷付いたという警察医の先生と先日お話する機会があったからなんです。
もちろん両者の言い分は痛いほど分かりますよね。。
どちらが悪いというものでもない気がします。
こんな悲しいことが起きないよう、早急に解決されたらいいなと思っています。