法医学とアルコール1 (飲酒はどれくらいで抜けるか?)

今回は皆さんにとっても馴染み深いであろう"アルコール"についてです。

法医学においても"アルコール"というのは、昔からかなり大きな一大テーマです。

ですので、到底今回だけでは書き切れないので、何回かに分けて書くことになります。


今回はその中でも『アルコールはどれくらいのスピードで代謝されるのか?』というのをメインに書いていきたいと思います。

あくまで目安なので、決してこの記事を基に行動するのは絶対にやめてください。



結論から先にかなり乱暴に書くと、

【アルコール消失速度:0.1g/kg/hr 】です。

つまり『体重1kgあたり1時間につきアルコールは0.1gずつ代謝されていく』ということです。



まず"アルコール量"についてみていきます。


皆さんもアルコールを飲む機会はあると思いますが、そのお酒の中に含まれているアルコール量は知っていますか?

多くの方が飲酒量やアルコール濃度(4.5%や9%など)に目が行きがちなのですが、結局は『実際に飲んだアルコールの量』というのが重要です。


飲酒の目安としてよく

「飲酒は1日20g」

「男性:1日40g以上、女性:1日20g以上 飲むと良くない」

などの言葉を耳にすると思いますが、見ての通り"アルコール量"で語られています。

決して飲むお酒(全体)の量だけや濃度だけを言っているわけでないんですよね。

皆さんも是非飲んだ"アルコール量"を意識してください。



ちなみにアルコール量の計算法は知っていますか。

『アルコール量(g)=飲酒量(mL)×アルコール度数(%)×0.8÷100』※0.8は比重


この式に当てはめると、350mLビール缶1本(アルコール度数4.5%)では、
「アルコール量=350×4.5×0.8÷100=12.6(g)」

アルコール度数9%のチューハイ500mL 1本では、
「アルコール量=〜略〜=36(g)」

アルコール度数40%のウイスキーショット30mL 1杯では、
「アルコール量=〜略〜=9.6(g)」

となります。


もちろん濃い度数のお酒をたくさん飲むのが危険なのは言うまでもありませんが、低いアルコール度数でもたくさんの量を飲んでしまうとだめというわけです。

女性はアルコール代謝が遅いため、9%のチューハイ350mL(→25.2g)が1本だけでも前述の目安を超えてしまいます。

結構シビアな数字です。



続いていよいよ『どれくらいでアルコールは抜けるのか?』という話です。

結論は冒頭で書いてしまっていますが、

『体重1kgあたり1時間につきアルコールは0.1gずつ』代謝されていきます。

具体例としては「体重50kgの人は1時間に5gのアルコールが抜けていく」ということですね。


これより、例えば「缶ビール1本(12.6g)飲んだとしたら、体重50kgの人で約2時間半かかる」ということですね。

なら2時間半経てば問題ないのか?と思う人もいると思いますが、そうでもありません。

現実には、上記の時間にある程度セーフティタイムを加えた時間はしっかりと空ける必要があります。


というのも、実際は【"アルコール関連の代謝酵素の遺伝子型"などによって消失速度が大きく変わってくる】からです。(次回以降に書く予定です)

同じ体型・性別の人でも「お酒に強い」「お酒に弱い」「すぐに赤くなる」などがありますよね。

それにはある酵素の遺伝子型が関わっているんです。

それ以外にも、普段からお酒を飲んでいるか否か等も厳密には代謝速度に関係してきますし、結局一概に言えないというのが現実ですね。



法医学実務では、もっと厳密な計算式から実際の血中濃度から飲酒量を推定したりすることはもちろんあります。

しかし、それと日常生活の中で計算上の数字を以て行動することとは意味合いが全く違います。

やはり生活の中ではある程度の安全域を考えて行動しなければなりません。

結局法医学者である自分でも、確実に言えることは『飲んだら乗るな!乗るなら飲むな!』だけですね。


それでは長くなったので、今回は一旦これくらいにして続きは次回にしたいと思います。