大学院生活 -法医学の場合-

今回は法医学の大学院生(博士課程)の生活について書いていこうと思います。

主に私の経験を元にした記載内容です。

研修医としての卒後臨床研修は終えている前提で話を進めさせていただきます。(参考記事:「法医学と研修制度」)

またいわゆる"論文博士"ではなく"課程博士"について書きます。


今回のテーマ内容はあくまでも"私の場合"であって、各法医学教室によってかなり大きく異なります。

具体的には言えませんが、周りの話を聞くとむしろ私自身は結構特殊なケースな気もします。

"スタンダード"ではなく"参考程度"でお願いします。



概要は以下の4つです。

・やはり"研究"がメインになる
・同じぐらい解剖手技や鑑定書類の書き方といった"実務"の習得も重要である
・"バイト"の時間は必須となる
・可能なら"教育"も手伝えるといい経験になる

【各種配分目安(例)】
研究:解剖:バイト:教育=4:3:2:1


詳しくみていきましょう。



まず大前提として『どこの法医学教室の門を叩くか?』というのがかなり大きな分かれ道になります。(参考記事:「どこの法医学教室がいいか?」「各法医学教室の違い」)

ここで選択を誤ると自分の思い描いていた大学院生、ひいてはその後の法医学者人生が大きく変わってしまいかねません。

今回のテーマの趣旨からは逸れますが、そこがまず最重要事項であることは忘れないでください。



さて、話は戻しましては、、、

無事に希望する法医学教室に春から大学院生として入学することが決まったとしましょう。

冒頭の各項目をみていきます。



【院生のメインは研究である】目安割合40%


大学院・博士課程では、文字通り「"博士号"を取ること」が最大の目的となります。

日本での最高学位であるわけですから、のんべんだらりと過ごしているだけでは学位は貰えません。

研究分野で学位授与に見合う新発見をきちんと成し遂げることでやっと"博士号"を頂けるわけです。


通常は4年間で博士課程は終了です。

素晴らしい結果を出せばもっと短い期間で卒業できるところもあるようですね。

逆に満足な結果が出せなければ、4年以上かかったり、最悪の場合は学位取得できず夢半ばで...という可能性がゼロではないことは肝に銘じておく必要があります。

とは言え、ある程度きちんと大学院生をしていれば、4年で十分卒業できると私は思いますよ。(教室の厳しさにも依りますが...)


本来基礎的な研究手技というのは修士課程で学ぶことも多いようです。

しかし、医学部卒の場合はその修士課程を飛ばして6年間の学部卒後いきなり博士課程へ進んでしまえます。

ここが結構なくせ者で、このシステムのために研究の基礎を満足に学ぶことなく博士課程が始まります。

ですので、まずは研究の手技や考え方、各機器の使い方をきちんと学びましょう。


中には「博士課程なのにこんなことも知らないの!?」なんて心無いことを言ってくる人がいるかも知れませんが、それは気にしてはいけません。

残念ながら、現代の医学部カリキュラムで育った医師にとってはこれが当たり前なのです。

全然気にすることではありませんので、安心して基礎を学んで吸収し、成長していってください。


そして、学会発表や論文発表を繰り返すことで「アカデミックな力をつけていく」

これが大学院生を過ごす上での優先すべき項目ではないかと私は思っています。

この"研究力"は法医学者になった後も絶対に求められる能力ですからね。


研究テーマを決めて
研究計画を立てて
データを集めて
データを整理して
結果をまとめて
論文発表する

4年かけてざっくりとこれをしていくことになると思います。



【法医実務の習得も重要である】目安割合30%


"法医実務"も法医学者にとって重要な役目です。(参考記事:「法医学者の責務」)

解剖手技はもちろん、特に法医学医は、

・死因究明全体のマネージメント
・鑑定書の作成

などの能力も必要とされます。


本格的に責任のある業務は実際に法医学教室に採用されてから行うわけですが、そのやり方を学ぶのは殆どの法医学者にとってまず大学院生の頃だと思います。

・法医学的な考え方
・鑑別疾患
・注意しなければならない点

等々、法医実務の基礎の基礎はこの大学院生のタイミングで学んでしまいましょう。


解剖は毎日あるとは限りません。

その機会を逃さないよう、1回1回の解剖を大切にして、いろんなことを吸収できると良いですね。



【バイトも必須である】目安割合20%


生活していくためにはアルバイトが必須になります。(参考記事:「法医学者のアルバイト」)

当然ですが、大学院には学費が掛かりますしね。


臨床研修を終えていれば、臨床アルバイトの幅が広がります。

幸い医師は割の良いお仕事も多いですので、研究や解剖の勉強への影響を最小限に抑えることができます。

曲がりなりにも学生は学業が最優先になりますので(※社会人枠を除く)、限られた時間を最大限有効活用していきましょう。


アルバイトに充ててよい時間というがある程度決まっている教室もあると聞きます。

具体的なタイムスケジュールは所属する法医学教室との相談は必要になってくるかと思います。



【余裕があれば"教育"のお手伝いもあり】目安割合10%


大学院生自体が学生ですので、学部生などへの"教育(のお手伝い)"の優先順位はどうしても低くなってしまいます。

とは言え、将来教員として働いていくことになるわけですから、この時期の"教育"経験は決して無駄ではありません。

むしろ「他人に教える」というは「自分が理解する」のさらに先にあるものです。

将来、警察や裁判官といった医学知識のない人に説明する機会も出てきます。

その時のためにも、"簡単に分かりやすく説明するスキル"を学んでいっても良いかも知れません。



以上、"法医学の大学院生活"でした。


何度も言うようですが、これは一例に過ぎず、各法医学教室で大いに違います。

研究が9割の法医学教室もあれば、実務指導が殆どの教室もあるかも知れません。

逆にそこまで極端なのもどうなのか?という考え方もあると思います。

それもこれもその法医学教室次第です。

だからこそ、『どこの法医学教室で学ぶのか?』はきちんと考えるようにしてください。


しかし、どこであろうと『博士号を取得する』が最優先事項であることに異論はないでしょう。

ちゃんと4年間で修了できように早め早めに計画して行動していくことを強くおすすめします。

そこは忘れずにいたいものです。


そして、私が最もおすすめするのは、

・実際に法医学教室の大学院生に直接話を聞く
・大学院生いなければ、若手法医学者に直接話を聞く

やはり直接話を聞くのが1番だと思っています。


正直なところ、もっとこの記事に詳しく具体的に書きたいことはあります。

しかし、現実はそうもいきません。

なので、是非本気で考えている人には、直接お近くの法医学者の生の声を聞いてほしいですね。(むしろ本気で考えているのなら是非そこまでしてほしい...)

その上で、皆さんに後悔のない選択をしてほしいですね。