実際に法医学者になろうと思っている人にとって「何をしておくべきなのか?」
私の経験を踏まえつつ、法医学者になった今、
「しておいて良かった」
「しておけば良かった」
と思ったことについて今回は書いていきたいと思います。
私が思うのは以下の5つです。
①臨床研修を受ける → 臨床医学知識を身につける
②友達・知り合いを作る → 困った時に頼れる人を
③実験・実習をきちんとやる → 研究の基礎の基礎を学ぶ
④英語を勉強する → 将来論文を書いたり留学する時のために
⑤法医学教室に面通しする → 法医学(教室)の現状を知る
ひとつずつ詳しくみていきましょう。
①臨床研修を受ける → 臨床医学知識を身につける
(+学会発表。論文まで書けたら万々歳...)
これは今回挙げた中で最も症例の法医実務に関わってくると思います。
別記事でも『臨床研修の重要性』については書きましたのでやや重複しますが。(参考記事:「研修医」)
法医学教室に運ばれてくるご遺体は昨今、病院に搬送されているご遺体がとても多くなっています。
病院に救急搬送され、そこで救命処置を受けた上でお亡くなりになって、その後解剖に回ってくるのです。
丁寧な臨床情報提供書を頂ける場合もありますが、我々法医学者はそこで受けた治療行為が理解できないといけません。
最近は死後画像検査が行われることも多いです。
ですので、これからの法医学者は、その画像検査結果がある程度"読める"ことは要求され得ると思います。("読影"とまでは言いませんが)
また臨床とのコラボレーションを追々考えるのなら、当然臨床医学の理解は必須になりますよね。
こういった知識は、やはり本で学ぶより身を以て経験し理解するのが1番です。
法医学で求められるのは"オールマイティな臨床知識"だと思います。
ただ最近は臨床研修のカリキュラムに関しても、内科・外科問わず満遍なく回れるようになっています。
なので「○○科を2年間!」みたいなことでなければ回る診療科はあまり神経質にならなくても良いと思いますよ。(そもそもカリキュラム上同じ科2年間は不可能ですし笑)
そして、さらに高みを目指すなら、、、
可能なら臨床研修の間に"学会発表"を経験してみても良いかも知れません。(参考記事:「学会発表」)
もちろん法医学に入ってから嫌というほどすることにはなりますが、臨床系学会の学会に行く(可能なら発表してみる)のは良い経験になると思います。
臨床医学系の学会はすごく大きいですよ!
それでも物足りない方は、"論文(症例報告)"を書いてみるなんて方法もあります。(参考記事:「論文投稿」)
投稿の査読のやり取りは独特ですし、「あぁこういう感じで進んでいくんだなぁ」と知れるのは良い経験です。
初体験という意味では、最初は別に日本語・英語どちらでも良い気もしますね。
そもそもここまで来たら臨床医としてもデキレジ扱いでしょう。笑
もし臨床研修中に、熱心で人格者な指導医に巡り会えたのなら(※ここが重要)、少し頑張ってみる価値は大いにあると思います。
②友達・知り合いを作る → 困った時に頼れる人を
これは医学生・研修医を通してのお話です。
将来法医学者になった際、絶対に法医学教室の中だけで解決できないことが出てきます。
法医学教室は小さいですし、得てして法医学者は孤独です。
そういった際に臨床医の友達がいるとすごく助かります。
前述のような"臨床医学の知識"が足りず、分からない点が出てきても聞くことができます。
医学生や研修医の頃に、そういった時に相談できる友達や知り合いが出来たら最高です。
そして、意外とこういった大学生や働き出してから苦楽を共にした友達が"一生の友達"になったりするんですよね。
医師の中でも法医学者は珍しい存在ですから、友達にとっても貴方は特別な存在になり得ることでしょう。
③実験・実習をきちんとやる → 研究の基礎の基礎を学ぶ
「法医学のー」というではなく、実験実習全般の話です。
医学部に入学すると、比較的すぐに実習・実験が始まると思います。
それをきちんと受けましょうということですね。
そこで行う実験実習の理論をきちんと理解しろ!と言っているのではありません。
もっと基礎的な話で、『顕微鏡やピペットの使い方、データの付け方・見方などをきちんと学習しましょう』ということです。
「いやいや、それくらい分かってるでしょ〜」と思う人も多いかも知れませんが、意外とこういった実験の基礎の基礎ができていない人もいるんですよ。
法医学者になると否が応でも研究せざるを得ません。
また医師の場合、大学院は修士課程を飛び越えていきなり博士課程からの入学になりますからね。
「博士課程に入学してから勉強します!」というのももちろんありかも知れませんが、研究(実験)の基礎は教養の間にちゃんと教わるはずなので、せっかくですしきちんと受けてしまいましょう。
医学生の間に学べることは決して多くはありませんが、それでも心して受けるだけで得るものは違ってきますから。
④英語を勉強する → 将来論文を書いたり留学する時のために
近年のアカデミックは専ら"英語"です。
論文についても初めは日本語論文で十分かと思いますが、本格的に書き始めると英語論文がほぼ絶対になってきます。
自分の論文に引用したり参考にする論文もまた当然英語で書かれていますからね。
お金を払えば論文中のおかしな英語を直してくれる"英文校正サービス"というものがあったり、有能な翻訳サイトも出てきていますが、少なくとも現時点では英語ができて超したことはありません。
スキルアップとして留学を考えるならより英語ができる必要がありますよね。
「学生の頃に英会話教室に行きなさい」とまでは言いませんが、最低限早めに英語に対する苦手意識は克服した方が良いと思います。
法医学者として大成するつもりであれば、英語は絶対に避けては通れませんからね。
⑤法医学教室に面通しする → 法医学(教室)のことを知る
これは挙げた中で唯一"法医学"に特化した事柄だと思います。
他の項目は臨床医になるにしてもそうそう無駄にはなりません。
しかし、"法医学教室への面通し"については、臨床医として生きていく場合は全く必要ないです。
逆に言えば、正に今回のテーマ『法医学者になるが為にしておいた方が良いこと』に最も合致した項目かも知れませんね。
別の記事でも触れましたが、自分が在籍する法医学教室というには、法医学の世界への最も身近な窓口です。(参考記事:「どこの法医学教室が良いか」)
法医学者になりたいと思っている場合に、そこを避ける理由はおそらく通常はありません。
特段強い理由が何もないのであれば、一度法医学のお話を聞きに法医学教室の門を叩いたらよいと私は思っています。
そこで法医学自体のお話を聞くもよし、その法医学教室の雰囲気を知るもよし、気になることを実際の法医学者に聞いてみるのが良いと思います。
法医学者になる上で、実際はこれが1番重要だと思います。
むしろ「これを無くして法医学者になるのは...」というのは言い過ぎですが、個人的には絶対におすすめします。
いくら強く「法医学者になる!」と心に決めていても、それは法医学のことがまだまだ分かっていない状態での話ですからね。
このブログも法医学について少しでも知れるようにと努めていますが、法医学の世界はなかなか伝え切れません。
またネット中をどんなに探してもこの情報はありません。
それを知るためには、実際の法医学者に聞くしかないんです。
逆に、実際の法医学者に聞けば、おそらく多くのことが分かると思いますよ。
一旦大学を離れて(卒業して)しまうと、やはり(自学とは言え)その法医学教室との距離ができてしまいます。
可能なら医学生の間に自学の法医学教室を訪問してみることを私は強くおすすめします。
余程のことがない限り、貴方を快く受け入れてくれることでしょう。
そこで抱えている不安や疑問を全てぶつけてみると良いと思いますよ。
以上、『法医学者になる前にすべき5つのこと』でした。
もちろんこんなことしなくてもきっと立派な法医学者にはなれますのでご安心ください。笑
あくまで私の経験を踏まえ、「もしまた医学生になったらどうするか?」というのをイメージして書いただけですからね。
振り返れば私自身も同じことをやってきてはいますが、果たしてそれが本当に良かったのか?は誰にも分かりません。
それでも確かに私は今法医学者をやっています。
これが"立派な"法医学者に繋がるか?は今後の私次第なんでしょうね。笑