今回は法医学教室に実際に入って
「あ、これは思っていたのと違うな」
と感じたとについて、自分の経験を含めて書いていきたいと思います。
良いことも悪いこともどちらも挙げていきますので、実際に法医学者を将来の道として考えている方は是非参考にしてみてください。
参考記事:法医学者になる前にすべきこと
↑この記事も参考にどうぞ。
"違っていた"のは大きく以下の通りです。
想像していたより、、、
<悪かった点>
・給料が安い
・責任が重い
・世界が狭い
・研究が大変
<良かった点>
・いろんなテーマがある
・他人も興味を持ってくれる
・肉体的負担は重くない
・時間的余裕がある
こんなところです。
詳しくみていきましょう。
まずは思っていたよりも"悪かった点"です。
[給料が安い]
これは臨床医をしていた頃からある程度分かっていたつもりでしたが、やはり(若手の頃は)安月給です。
臨床系教員なら大学に加えバイト先病院からの給料もあるため、贅沢を望まなければ生活には殆ど困らないと思います。
法医学の場合は大学給与しかありませんから、駆け出しの頃はこの点が臨床医よりもかなり厳しくなります。
若い間は同期の臨床医がバンバン高給取りになっていきますからね。
ただ役職が上がると大学からのお給料も増えますので、順当に役職が上がっていけば徐々にこの問題は改善されていきます。
とは言え、教員として採用されれば大学給与で生活できますが、その前段階である大学院生の間はそうもいきません。
まして大学院生の間は授業料も払わなければなりませんので、ある程度生活を養えるアルバイトを探す必要があります。(参考記事:「アルバイト」)
親切な法医学教室なら斡旋してくれることもあるようですが、私の知っている範囲では自分でバイト先を探してきた大学院生の方が多い印象です。
このモラトリアム期の生活保障が法医学の課題の一つだと私は思います。
[責任が重い]
これは純粋に最も想像以上な点でした。
法医学医は単に解剖するだけが仕事ではありません。
解剖した結果を考察・吟味して法医学的な判断を下すことが求められます。
ここに法医学医としての大きな責任が伴うわけですね。
自分の判断がもし真実とは違っていたなら...そう思うと本当に毎度毎度の鑑定に重い責任を感じますね。
法医学に足を踏み入れるなら、これは本当に覚悟していた方がいいと個人的には思っています。
厳しい言い方になりますが、もし「そんな責任を負うのは耐えられない」と思うのなら、少なくとも法医学医になることは私はおすすめしません。
[世界が狭い]
これは『"法医学"という世界が広くない』という意味です。
決して「法医学者の視野が狭い」と言っているわけではないので勘違いしないでくださいね。
法医学者の数はかなり少ないです。(参考記事:「法医学者の人員」)
ある程度法医学の中で普通に活動していれば、「法医学者の殆どが顔見知りないし知っている」という状況になることでしょう。
これ自体は別に悪いことでもないのですが、地域によっては『その都道府県に1箇所しか法医学教室がない』というところも普通にあります。
そういう地域では「困った時の相談相手が多くない」というデメリットが効いてくるんです。
法医学においてだけでなく、臨床に関しても法医学は臨床現場から少し距離がありますので、そういった点でも少し心細くなることもあります。
これは法医学に入った直後というよりは、法医学を続けている中で徐々に身に沁みて感じてくることだと思います。
[研究が大変]
法医学も大学内の分野なので、研究結果が求められます。
なので、法医学教室に所属する法医学者にも必然的に研究スキルが求められます。
人に依ってはこれをストレスに感じる方がいるかも知れません。
これはバリバリ臨床をやっていた先生は特により強く感じると思います。
大学病院の先生を除くと、臨床医でもあまり研究に携わる機会は多くないですからね。
私自身も学生の頃を除くと、生活の中で研究を求められたのは法医学教室に入ってからが初めてでした。
ですので、最初はそもそもの実験手技や研究設計の立て方、科研費の申請など結構いろいろと戸惑うこともあると思います。
もちろんこれに関しては、教室で丁寧に指導してもらえるので不安に思わなくて全く大丈夫です。
ただ「日々の中で研究を行うこと」自体は、大学で法医学者として働き続ける限りは求められることですので、解剖・教育と共に頑張っていかねばなりません。
続いて想像していたより"良かった点"ですね。
[いろんなテーマがある]
法医学にはいろんなテーマ・領域があります。(参考記事:「法医学領域」)
解剖から病理組織、薬毒物、DNA、虐待、法歯科、法昆虫学...。
いろんな知識が求められる一方で、教室の方針にも依りますが、好きなテーマを自分で選んで専門にすることができると思います。
これは大きな魅力ですよね。
法医学にはまだまだ未知の領域も多いですから、専門的に研究を進めて良い結果が出せれば社会にも大きな貢献ができることでしょう。
ここにやりがいを見出せられれば大きいことでしょう。
[他人も興味を持ってくれる]
法医学はある意味で身近なテーマでもありながらもなかなか実態が見えない特殊な分野なので、周りの人間が法医学者に興味を持ってくれることも多いです。
(このブログの読者さんもきっとそうなのだと思います)
これは世間一般に限らず、臨床医にとっても同様のようですね。
私自身、知り合いの臨床医の先生から、法医学に関するご質問にお答えしたり法医学についてお話しする機会を設けてもらうことがしばしばあります。
「それだけ法医学には需要があるんだな!」と嬉しく思う反面、まだまだ広く知られていないことに関しては「頑張っていかないといけないな!」と身が引き締まる思いもします。
ともかくも他人が自分に興味を持ってくれるのは嬉しいものです。
[肉体的負担は重くない]
これは法医学者の感じ方にも依るのかも知れませんが、臨床の頃と比べると法医学者になってからの方が肉体的負担は減りました。
実際に法医学教室に入る前は「世の中は凶悪な事件がどんなけ溢れているか!?」なんて思ったりすることもありました。
しかし、実際はドラマみたいな事件なんて、そんなしょっちゅう起きることはありません。
日々法医学をやっていると中にはヘビーな解剖もありますが、それも頻度としては多いわけではありませんのでね。
このメリットについては「近年女性法医学者が増えてきている理由の一つなのかな?」と個人的に思ったりしています。
どうなんでしょう。
[時間的余裕がある]
自分の時間に関しても、臨床医の頃よりも法医学に入ってからの方が増えましたね。
臨床医の頃は土日も病院に行かなければなりませんでしたし、昼夜問わず忙しかったですからね。
あの頃を思うと、今の労働環境や労働時間は極めてホワイトだと思いますよ。
もちろん急な解剖依頼でイレギュラーになることもありますが、その頻度としても、やはりそれほど多くないと私は感じています。
一つ前の項目に関連して、今後もっと"ママさん法医学者"が活躍できるよう環境になっていくことを期待したいですね。
ということで、今回は『法医学に実際に足を踏み入れて「違っていたな」と思ったこと』を挙げてきました。
いろいろと挙げてきましたが、私にとっては進路を変えるほど致命的な"違い"ではなかったですね。
その人の性格や考え方が大きく影響するところかも知れません。
法医学にも"インターン制度"みたいなものがあれば、興味のある人がもっと気軽に法医学教室の雰囲気を知れると思いますが...。
法医学はナーバスなテーマを扱うことも多いので、そんな気軽に誰でも中を見てもらうというのが困難であるという事情もあるんですよね。
ただ自学の学生は問題なく対応してくれる法医学教室も多いと思います。
"実際の法医学現場"を見たい医学生さんは是非一度自分の大学の法医学教室へ!!