2020年時点で、日本で飼われている犬は約850万頭、猫は約960万頭だそうですね。そうなってきますと、まだまだ珍しいケースではありますが、「イヌに噛まれた」というご遺体に出会うことがあります。臨床医学で言うところの"犬咬傷"ですね。法医学においては、まさにこの犬咬傷が死因となることもあれば、死後の損壊としてみられることもあります。オオカミを祖先とするイヌは肉食動物です。飼い主の死後、食べ物が亡く

頭蓋骨の解剖学的名称

今回は法医実務向けな記事です。頭蓋骨の"解剖学的名称"を画像とともにお示ししていきます。骨を含め身体の臓器に関して、専門家の間で議論するには"共通認識"が必要になります。"心尖部"と言えば「心臓の下側先端部」がイメージできなければなりませんし、"肝床部"と言われれば「胆嚢が引っ付いている肝臓の裏面」が想像できなければなりません。ブログではひとつひとつ文章で説明すればよいですが、専門家の白熱する議論

強直性硬直 [Cadaveric spasm]

今回は"強直性硬直"について書きます。死後硬直は死後数時間後に顎関節から始まるのが典型的です。(参考記事:「死後硬直」)つまり死直後〜早くても死後1時間弱の間は筋肉は弛緩していることが殆どです。ところが、この死直後に弛緩が起きないケースがあるとされており、この現象を"強直性硬直"と呼びます。強直性硬直[cadaveric spasm/instantaneous rigor/cataleptic s
法医学者に対する間違った認識でよくあるのが、『法医学者は死亡確認を頻繁に行っている』というものです。この誤認識について今回は書いていきたいと思います。法医学者は死亡確認のプロではありません。というか、法医学者は殆ど死亡確認はしません。詳しく説明していきます。法医学者が死亡確認をしない理由...それは、「既に死亡確認された後のご遺体」が法医学者のところに運ばれてくるからです。『法医学者は基本的に現場
今回は[autoerotic death]について書いていきます。適する和単語がなく日本でも「オートエロティックデス」とそのまま呼ばれることも多いです。その特異な死亡状況から世間からはしばしば好奇の目で見られてしまいますが、本記事では法医学視点から真面目に書いていきます。『オートエロティックデス』[Autoerotic death]:"自慰行為に関連した死"のこと。典型的には直接的な死因は"窒息"
平成7年(1995年)1月から、死亡診断書は現行の形式に変更されました。その中で、ある注意書きが周知されました。『死亡の原因欄には、疾患の終末期の状態としての心不全、呼吸不全等は書かないでください』この注意書きによって平成6年前後の"心疾患"死亡者数が大きく減ったのは、医学生の頃に勉強したかと思います。それでは、この平成7年以降、死亡診断書に"心不全"や"呼吸不全"という文言が完全に消えたのか?と

癌・悪性腫瘍で何故死ぬのか

いわゆる癌(悪性腫瘍)が死因統計で1位であることは今では誰しも知っているかと思います。それではこれは知っているでしょうか。『何故癌で死ぬのか?』『癌がどうなることで死に至るのか?』これについて知らない人はきっと多いと思います。今回は『癌が何故死を引き起こすのか?』について書いていきたいと思います。※ちなみにこの記事内では「癌=がん=悪性腫瘍」として書いていますのでご了承ください。癌による身体への主

湯傷[Scald] (熱湯による熱傷)

今回は"湯傷"を取り上げます。いわゆる「熱湯によるやけど」のことですね。皆さんも軽いものは経験があるのではないでしょうか。"湯傷"は"火炎による熱傷"とは違う点が多々あります。(参考記事:「熱傷」)これらを理解することで、両者を鑑別していくことが法医実務上では重要となります。なぜこの"湯傷"がそんなに重要なのか?と言うと、『児童虐待に関係している場合があるから』です。近年報道でも虐待に関するニュー
皆さんは釣りは好きですか?私は人並みにしかやったことはありません。好きな人は夜中や朝方にも釣りに行くそうですね。今回はそんな"釣り人"にまつわる小話でもしたいと思います。記事タイトルの通り、『釣り人はご遺体の第一発見者であることが多い』んですよ。おそらく皆さんが思っている以上に多いです。『海で浮かび漂っているご遺体を釣り人が発見した』という警察からの触れ込みは、特に夏の法医学教室で結構聞かれます。

法医学は文系である?

今回は『法医学は本当に理系なのか?』というテーマについて書いていきたいと思います。"法医学"は"医学"の一分野であり「受験においては"理系"である」ということは明確に言えるでしょう。しかし、"法医実務"という観点から考えると、必ずしも「完全な理系である」とは言えない状況もあると感じています。今回は『法医学における文系要素』をみていきます。私自身が普段感じていることなので、小難しい感じでなく気軽に読