ワイドラー徴候(Wydler's sign)

今回は溺死の際に認められることのある"ワイドラー徴候"について書いていきます。所見というか現象といったところでしょうか。想像以上に単純な現象ですので肩の力を抜いて読んでもらえればと思います。【ワイドラー徴候】[Wydler's sign]:胃内容を静置すると3層に分離する現象。上から泡沫(気体)→溺水(液体)→胃内容物(固体)の3層に分かれる。詳しくみていきましょう。【ワイドラー徴候】これは"溺水
今回は高度のストレス下で起こる解剖所見である"ヴィシュネフスキー斑"[Wischnewski spots]"カーリング潰瘍"[Curling's ulcer]"クッシング潰瘍"[Cushing ulcer]を取り上げていきたいと思います。皆さんも「最近ストレスで胃の調子が...」という経験があると思います。「ストレス性の胃潰瘍・十二指腸潰瘍」という言葉を聞いたことがある人もいるかも知れません。この

パルタウフ斑とタルデュー斑

今回のテーマは毛細血管の破綻によって生じる"パルタウフ斑"と"タルデュー斑"です。実際この言葉を聞いたことがない人は多いと思います。これら斑状出血は、一般の方は知らなくて当然なくらい法医学の中でもまずまずなマイナー所見です。ただ知っていれば格好いいですからね。今回は自分自身の備忘録の意味も込めて、これら出血について書き留めていきたいと思います。2つの斑状出血の簡単な概要は以下の通りです。【パルタウ

シモンの出血(Simon's bleedings)

今回は、縊頚でよく認められるとされる"シモンの出血" [Simon's bleedings]について書いていきます。そもそも縊頚[いけい]とは、簡単に言うと"首吊り"のことでした。(参考記事:「縊頚」)縊頚は自他殺鑑別の観点からも、細かな所見も注意して観察する必要があります。首吊りにおける所見として、イメージしやすいのはやはり"頚部の索痕"だと思います。その他にも、・顔面がうっ血する・眼瞼結膜に溢
『法医学者は少ない』という話はよく聞きますよね。私自身も常々「興味がある方は是非一度法医学教室へ!」なんてことを言っています。では『実際に法医学を目指す医学生は少ないのか?』今回はこのテーマについてリアルな数字と一緒にみていきたいと思います。医学生に対するアンケート結果(※複数選択可)によると...【アンケート時点で将来のキャリアとして「社会医学」と答えた医学生は全体の"10.0%"】でした。お世
今回のテーマは『実際の法医学がドラマと違う点』です。一般の方が法医学をイメージする際、おそらくそのソースは法医学ドラマだったりすることが多いと思います。私も法医学ドラマが好きでよく観ています。最近のドラマは割と実際の法医学に準拠している気がしますね。(昔のドラマは...なものもありましたが笑)ただ法医学者の私からみてみると、やはり実際の法医学と違っている点もまだちょこちょこあるんですよね。今回はそ
今回は法医学教室に実際に入って「あ、これは思っていたのと違うな」と感じたとについて、自分の経験を含めて書いていきたいと思います。良いことも悪いこともどちらも挙げていきますので、実際に法医学者を将来の道として考えている方は是非参考にしてみてください。参考記事:法医学者になる前にすべきこと↑この記事も参考にどうぞ。"違っていた"のは大きく以下の通りです。想像していたより、、、<悪かった点>・給料が安い
「季節によって死因に違いはありますか?」このようなコメントと読者の方からたまに頂きます。結論から言うと『あります』。今回はこれを含め「法医学者をしていて四季を感じる事柄」について書いていきたいと思います。季節毎の概要は以下の通りです。【春】自殺が多い。学会(全国集会)がある。新入生や新人さんが入局してくる?【夏】熱中症や海に関する死亡が多い。高度腐敗の遺体が増える(≒死因不詳が多い)。【秋】学会(
今回は少し趣向を変えて、視点を裁判所からに変えてみましょう。『裁判において"証拠"とはどのような基準で判断されるのか?』例えば、DNA鑑定やポリグラフ鑑定・筆跡鑑定・声紋鑑定などの科学技術はある程度確立され、現在では「証拠能力はある」と判断されていると思います。しかし、もしまだ一般的ではない"トンデモ科学"と一見して思われるようなデータが証拠として裁判で提出された場合はどうでしょう。それはどのよう

RT-PCR (reverse transcriptase)

今回は"RT-PCR"という技術について書いていこうと思います。「あれ...以前書いたんじゃ?」と思った方もいらっしゃると思います。前回"リアルタイムPCR"について書きました。(参考記事:「リアルタイムPCR」)この"リアルタイムPCR"と今回の"RT-PCR"は全くの別物です。「Real Time = RT」と勘違いする学生さんも多いですが、そうではないのです。この混同を避けるために、"リアル