今回から数回に分けて"交通外傷"シリーズを書いていこうと思います。"交通外傷"...特に自動車事故をメインに触れます。転倒や打撲等の外傷に比べると、自動車による外傷は遥かに高エネルギーです。そのため、損傷も重篤かつ致命的なことが多く、臨床現場でも大きなテーマとなっています。法医学においても"交通外傷"の重要性は高く、『その交通外傷(事故)が何によって起きたのか?』を医学的側面から究明していくことが
「出血した血液はどれくらい経てば固まるのか?」今回はこれについて考えてみたいと思います。ドラマでも血液の固まり(乾燥)具合から、時間経過を判断するワンシーンがあると思います。あれですね。ただ、この知識自体は現場に赴かない法医学者にとってはあまり馴染みのない話です。むしろ検視官や鑑識の方の方が詳しいとは思います。ですので、「血液の乾燥」に併せて「血液の凝固」についても触れていきたいと思います。こちら

制縛死

今回は"制縛死"について書いていきます。この"制縛死"という言葉を皆さんは聞いたことはあるでしょうか。法医学でも近年はあまり使われない言葉です。文字通り「制縛による死、制縛中の死」ということなのですが、制縛:圧迫や制限を加えて自由を束縛すること。ということで、その拘束や束縛の状況など死亡時の周辺情報が重要となります。"制縛死"とは、その死の状況を表したに過ぎないので、病名(死因名)ではないことには
"性別判定"というのは法医学においても重要なテーマです。現在ではDNA型判定技術が発達しているので、DNAさえ採取できれば性別を判断するのはそこまで困難ではありません。(参考記事:「DNA性別鑑定」)しかし、そういった遺伝子技術がない頃はどうしていたのか?そんな頃の性別判定で使用されていた性別判定所見のひとつが"ドラムスティック白血球"です。仮に身体が失われており、肉眼的な見た目で判断できない場合
2021年9月18日発売 WAVE出版 (出版社URL)『新版 焼かれる前に語れ 日本人の死因の不都合な事実』 (著:岩瀬博太郎、柳原三佳)2007年の『焼かれる前に語れ』(小社)刊行から14年――。当時から多くの問題が露呈していた我が国の死因究明のあり方は、流れる月日とともに大きく改善されただろうか。否、である。国も警察も相変わらずこの問題から目を背け、ほとんど何もしないでいる。この間、我が国は

解剖に立ち会う人

『解剖時にはどんな人が立ち会っているのか?』今回はこれがテーマです。ドラマでもよく解剖シーンが描かれています。基本的にそういったドラマの描写に大きな間違いはないとは思います。ただ"解剖の立ち会い"についてあまり詳しく語られている印象はないですよね。なので、今回は『解剖に立ち会いする人物とその役割について』書いていきたいと思います。結論から書くと、解剖に立ち会う人物は以下の通りです。主に"法医学教室
日々法医学で働く法医学者にって「最も辛いこと・嫌なこと」とは何でしょうか。解剖が大変なこと?臭いがキツいこと?日陰の存在であること?法医学者によって「辛い」と思うことは様々ですが、私の場合は上記のどれとも違います。私にとって最もつらいのは、、、【死因に"不詳"を付けること】です。ドラマでもありましたが、やっぱり死因に"不詳"を書く時はとても悔しい気持ちになります。今回は死因"不詳"に対する法医学者

体位性窒息 (Positional asphyxia)

今回のテーマは"体位性窒息"です。別記事でチラッと触れたことがあるのですが、今回改めて詳しく取り上げます。(参考記事:「外傷性窒息」)英語では[positional asphyxia]と呼ばれています。"窒息"と聞くと、多くの方が首吊りや首絞めをイメージされるかと思いますが、当然窒息の形態はそれだけではありません。その形態の一つが"体位性窒息"です。このような体位での窒息死が、"体位性窒息"として

第三永久死体

今回のテーマは"第三永久死体"です。そもそも"永久死体"とは『特殊な条件下で起こった死体現象で、腐敗や白骨化が起こらず長期間・半永久的にその形態を保つもの』でした。イメージしやすいものとしては、"ミイラ(化)"や"死蝋(化)"が挙げられます。(参考記事:「ミイラ化」「死蝋化」)そして、この両者どちらでもない永久死体を"第三永久死体"と呼びます。頻度としてはかなり珍しいのですが、いろいろなケースがあ
2021年9月16日発売 新潮社 (出版社URL)『死体格差―異状死17万人の衝撃―』 (著:山田敏弘)年間約17万人――高齢化が進む日本では、孤独死など病院外で死ぬ「異状死」が増え続けている。そのうち死因を正確に解明できるのは一部に過ぎず、犯罪による死も見逃されかねないのが実情だ。なぜ、死ぬ状況や場所・地域によって死者の扱いが異なるのか。コロナ禍でより混迷を深める死の現場を赤裸々な証言で浮き彫り