世界的に見ても、日本は"風呂溺死"がとても多い国です。これは日本人の"風呂好き"気質が起因していると言われています。事件性のない検案事例において、"風呂溺死"に遭遇するケースは実際に多いです。いわゆる"ヒートショック"などもここに含まれます。(参考記事:「ヒートショック」)それでは、そういったケースでは、死体検案書の記載(死因や死因の種類など)はどうなるのでしょうか?今回はこのテーマを取り上げてい

死後血液検査の意義

臨床現場では日常的に行われている血液検査(採血検査)。その血液検査の意義は、法医実務の上ではどうなのでしょうか?亡くなった後に起こる死後変化は血液にも及びます。このため、検査項目によっては、臨床現場で用いられている"基準値"をそのまま用いることはできません。今回はそんな"死後血液検査の意義"について書いていきたいと思います。死後血液の検査項目を解釈するには、以下のような3グループに分けて考える必要
死亡時刻を推定する際、一つの方法だけでは誤差・個体差が大きいため、多角的な手法を用いて推定する必要があります。・直腸温法(深部体温法) 「参考記事①」・死斑の転位 「参考記事②」・死後硬直の程度・角膜混濁の程度・腐敗緑変の程度このような方法で"死後経過時間"を推定し、検案した時刻から逆算することである程度の死亡時刻を推定することができます。この他にも、やや原始的?な推定法があります。それが"食後経
2022年11月29日発売 [1600円+税] 毎日新聞出版 (出版社URL)『ある行旅死亡人の物語』四六判 全216頁 (著者:武田 惇志、伊藤 亜衣)現金3400万円を残して孤独した身元不明の女性、あなたは一体誰ですか?はじまりは、たった数行の死亡記事だった。警察も探偵もたどり着けなかった真実へ――。「名もなき人」の半生を追った、記者たちの執念のルポルタージュ。ウェブ配信後たちまち1200万P

縊頚は窒息死ではない?

縊頚[イケイ]とは...要は「首を吊ること」です。(参考記事:頚部圧迫)それではどうして縊頚では死に至るのか?実は「気道が閉塞して苦しくなって...」というイメージとは若干違います。今回は"縊頚の機序"について書いていきたいと思います。結論から言ってしまうと、縊頚で死に至る機序は「脳への血流が途絶えて脳虚血が起きるから」という理由がメインです。脳虚血が起きると速やかに意識消失を起こします。このため

キャスパーの法則 (Casper's law)

今回は「環境による腐敗スピードの違い」を取り上げます。法医学でも有名な"キャスパーの法則"です。ドラマや小説にも時々出てきますよね。一見単純ですが、実は多くの注意点があります。今回はそういった点も含めて"キャスパーの法則"をみていきたいと思います。【キャスパーの法則 [Casper's law, Casper's dictum]】:「遺体の腐敗状況において、平均気温が同じ場合、『地上の1週間(or

物体検査

目の前に"液体"があります。「その"液体"が何なのか」を知るためにはどうすればよいでしょうか?法医学では様々な体液を扱います。(参考記事:「法医学における体液」)↑ような「目の前の物体が何なのか?」を調べるために行われる検査を法医学では"物体検査"と呼んでいます。今回はこの"物体検査"を取り上げます。法医実務では、"各物体に特異的な物質"を検出することで、物体・試料を特定しています。例えば、・血液

『異状死』レビュー

2022年9月29日発売 [900円+税] 小学館/小学館新書 (出版社URL)『異状死 日本人の5人に1人は死んだら警察の世話になる』新書判 全288頁 (著者:平野久美子)「多死社会」で起きる"異常"事態《イジョウ死》と聞けば多くの人は「異常死」という漢字を思い浮かべ「不審な死に方」を想像するが、本書で取り上げるのは《異状死》である。検視(検死)というと、殺人事件や事故死、医療ミスによる死亡な
116F3966歳の男性.自宅アパートから出火し,焼け跡から死体で発見された.死因等の特定のために司法解剖された.剖検時の所見でこの男性が火災発生時に生存していたことを示すのはどれか.a 頭蓋内の燃焼血腫b 頸部皮膚のⅢ度熱傷c 気管内の煤付着d 肘関節屈筋の熱収縮e 背部の死斑正答は【c】です。【生活反応】=傷害発生時に生存していたことを示す所見。(参考記事:「生活反応」)[a] 誤り(=生活反
116A572ヵ月の女児.けいれん重積のため救急車で搬入された.母親によると夜間寝ていてけいれんが始まった.救急車内で心肺停止となり心肺蘇生を試みたが,来院時は心拍の再開がなく,対光反射は消失していた.蘇生を継続したが心拍の再開がなく死亡が確認された.母子手帳によると妊娠分娩歴に異常はないが,1ヵ月健診は受診していない.顔面や体幹に新旧混在した皮下出血の散在を認めた.死後に行った頭部CTでは両側に